恋愛戦争
彼女の母親が長い間病床に伏せる病気だったことを、葬式の前に母親から聞いた。
ここに引っ越してきたのは、少しでも生きながらえて貰うため、最高の医療を受けさせるために母親を転院させたためだという。
晶の父親は、有名な資産家できっと仕事も忙しかったはずなのに、充分な愛を娘に注いでいた。
そして、最愛の妻にもたくさんの愛を注いでいた。
綺麗な花々に敷き詰められた棺桶の中に眠る美しい1人の傍らで、困ったように笑いながら泣き続けていた父親と、泣かない晶。
前の人間に習いお焼香をすると、ちらりと晶と目が合う。
お辞儀をされて一瞬で終わった。
なんだかとてつもなく悔しくて、俺は葬式が終わった後、1人で晶を待った。
「ナツ?なにしてるの?」
「お前待ってた」
「どうしたの?」
「一緒に帰ろうと思って」
なんて事のない日常会話なのに、酷く他人行儀に感じられた。
「ごめん、まだ色々あるから帰れないんだ」
「そっか、わかった」
「うん、じゃあまた」
そう言ってくるりと身を翻した時に舞うアッシュブラウンを、覚えたてのメンソールで包み込んだ。
細い肩を後ろから抱きしめると、見た目ではわからないほど痩せた事を感じた。
「晶、俺が守るよ」
俺はこの時、死ぬよりも強い覚悟でこの言葉を発した。
晶は、相変わらず微笑んでそっと腕から抜け出した。
「ナツ、煙草の匂いするよ」
「うん、吸い始めて」
「まだ未成年でしょ」
「みんなやってるよ」
なんでこんな会話してんだよ、俺の決意はどこに行ったんだよ。意思を込めた瞳で見つめると、彼女はそれよりも強い怒りを込めた眼差しを俺に向けた。
「私のお母さんね、飲酒運転してた未成年のバイクに跳ねられてから体調がずっと悪くて、調べたら打ち所が悪くてわかった時には取り返しのつかないことになっていたの」
「運が悪かっただけかもしれない、でも始まりは法律を守らなかったそのひとの所為だと思わざるを得ない」
「私は、許さない」
「法律一つ守れない男が、一人の女を守れるの?」
たかが煙草一本の罪が重く背中にのしかかってきた。
犯罪であり、法律を破る行為だということを言われるまでまるで理解できていなかった。