恋愛戦争
「荷物後ろに置いてねー」
「了解」
「いやいや、お前はこっちだよ」
「あなたの隣で息吸いたくない」
「ごめんね、かっこよすぎて」
「すいません聞き取れませんでした」
車内で待っていた俺は、遠くからでもすぐわかる姿にロックを外す。そして冒頭の会話。
彼女は慣れたように後部座席へと乗り込んだ。傍に重そうなケースを置いてもう動かない、と瞳で意思表示をしてくる。
こうなった晶は絶対に動かない。昔からそうだ。
「どっか寄る?」
「いや、大丈夫」
「前、乗る?」
「早く出してもらえませんか?」
手強い手強い。はいはい、とハンドルを握って車を出した。安全運転で、お送りしますよお嬢様。
信号待ち。ミラーでちらりと後部座席を見れば腕を組んだままの状態で、彼女がぐっすり寝ていた。
一線を引いているようで、すぐ油断する。だけど、その隙につけ入れられないのは彼女が嫌がるとわかっているから。
なるべく近くで、だけど踏み込まずにじっと見守ることしかできない。
もうすぐ家つくんだけどなー。どうしよっかなー。起こしたくねぇー。
車を発進させて、見えてきた見慣れたマンションへ行くとこれまた見慣れた警備員を顔パスで通り駐車場の定位置へと停車させた。
どうしよっかなーなんて考えてた割にはほとんど答えは出てて、そんな自分に苦笑する。
静かに車を降りて、後部座席のドアを開けると無防備に寝息を立てる晶。
そっと、背中と膝裏に手を回してゆっくり抱き上げる。相変わらず、軽い。食事をすぐ抜く癖はいつまでたっても治らない。
きっと俺がいなかったら一日中何も口にしないだろう。
それでも、腕の中の重みと比例して何かがずっしりと、重さを増す。
車がロックされた音を確認して、それから彼女が起きた時の反応も考える。
すぐ「帰る」とか言うんだろうな。まぁ、荷物は全部ロックされた車の中だけどな。
ーーーーー晶が好きで好きでたまらない。そんな俺の日常の話である。