恋愛戦争
用意された服に着替え、少しの休憩を挟んだ後に撮影が再開される。
「ねぇ今日の夜ご飯なにがいい?」
「勘違いされるような発言は控えて下さい」
「案外、勘違いじゃないんじゃない?」
「安藤さーん、南月さんにセクハラされまーす」
「やめろ、声大きい、ごめんて」
「早く行ってください」
野犬を払うように手の裏でジェスチャーされて悲しい。仕方なく指示通りに従う。
全身真っ白の服を着た俺はバックスクリーンも白に変わったそこの定位置に立つ。
スタッフが準備するなか、至急買い足されてきた絵の具が晶の足元に並べられていく。
しかも缶のやつね。大体の予想はついているものの、嫌な予感しかしない。
彼女の指示により何人か手が空いてるスタッフも加わり、その缶を色違いで手に持っている。
「ねぇ、悪い予感しかしないんだけど」
「気のせいですよ」
照明の角度が決まり、にっこりと胡散臭い笑顔を浮かべた彼女が眼光を鋭くして一瞬でカメラを構える。
そして一言。
「絵の具お願いしまーす」
その合図で俺は絵の具塗れとなった。
四方八方から飛んでくる、色のついた塊が服に、俺に、命中していく様は、果たして綺麗なのだろうか。
それに、ポーズなんて取ってられないから晶ご所望の嫌がる顔を永遠と撮り続けていることになる。
「ねぇーこれやばくない?おれ最後何色になるの」
バシャバシャと言う音の合間に叫べばその顔すらもシャッターを切られる。
それに無視されるし。
あ、髪に結構かかってる。最悪シャンプー大変じゃん。
すぐに絵の具塗れとなった俺は床に胡座をかいて座り込む。
すると、絵の具の音が止んでペタペタと自身も汚れてもいいように裸足になっている晶が近づいてくる。
まるで熱でも放出しているのだろうか。アドレナリンがガンガン出ている雰囲気で、それでも冷静だからどこか艶があって、ああ、体温が上がる。
「ねぇ、このあとシャワー浴びてもいい?」
「はい、浴びてください絵の具はここだけしか使わない予定なので」
話している最中も俺を撮り続ける彼女は、至近距離まで来るとチラッとカメラから顔を覗かせた。
そして小さな声で囁いた。
「ナツの怒った顔は好きだよ」