恋愛戦争
そのマネージャーの品川さんは俺にとって要注意人物。基本的な事は今まで通り晶本人に任せ、相談があれば乗り、手助けをする優しい大人の男である。
美丈夫な顔に、少しだけ明るい髪、元陸上部だと明るく話す社交性。そこらのモデルとあまり変わらない身長。未婚の36歳と言う男盛り。
女が惚れる男の集合体みたいな人間だ。
そして今までは俺の事務所が代行で行なっていた自宅や勤務地への送り迎えを、品川さんが担当するようになった。
ここ重要、ここが1番許せない。
「送り迎えくらいうちの事務所でよくない?」
「よくないって、何回も話し合ったでしょ」
そうだ。何回も文句を言いつけその度に丸め込まれたのだ。
同じマンションだからいいじゃん、と言えばだからこそプライベートと仕事を分けろと言われ、尚且つ俺のファンに晶が付け狙われたらどうすると言われる。
しぶしぶ折れた物の、やっぱり気に食わなくてこうやって品川さんが来れないときは強制的に連れて帰る。
「晶は俺と帰りたくないの?」
「小学生みたいなこと言わないで、モラルの問題でしょ」
「え、モラル?なんで?俺モラル違反?」
「ナツは自分のルールを押し付けすぎ」
急に説教されてまじで落ち込む。車体の窓ガラスに前頭葉を打ち付けると前方から南月落ち込むなよ、と慰めの声が飛んでくる。
「でも、羨ましいとも思う、ナツの真っ直ぐさが」
「好き?」
「そうじゃない」
「憧れ?」
「そうじゃない」
晶を見れば、彼女もこちらをじっと見ていて、見つめ合う。
「好きとか憧れとかじゃなくて、単純に羨ましいだけ。わたしが持っていても持て余すだけだから」
分かるような分からないような抽象的な表現ばかりで、頭の中が混濁する。
「南月にはまだわかんねぇーかなぁ〜」
ニヤニヤしながら大人ぶって発言したハゲが信号待ちで振り向いてきたので座席を3発蹴ってやった。