恋愛戦争
「晶ちゃーん、起きてー」
出来上がったスープパスタを皿に盛り付ける前に何度か眠り姫に声をかける。
「……ん」
起きたよ、のサインなんだろうか。少しだけ手を挙げてまたパタン、と降ろされる。
「えー今の可愛い、もっかいやって」
「………起きるよ」
渋々、目を開けた彼女は鼻腔をくすぐる香りを嗅ぐとふわりと笑った。
「すごくいい匂いがする」
「うん、ご飯食べよ」
彼女の乱れた前髪を撫で付けてからキッチンに戻り皿に盛り付ける。
「すみません、本気で寝てしまって」
「いえいえ、まだ疲れも残っているでしょうし、ご飯食べてしっかり休んでくださいね」
ま、俺が作ったわけじゃないんですけどね。と晶を笑わせることも忘れない優秀なマネージャー。安藤さんがへらへら笑うのにつられて晶も笑っている。
晶が笑えば世界平和。
「わ、美味しい!」
一口食べた彼女の綺麗な唇から思わず漏れたその一言がとても嬉しい。
「よかった、まだあるから」
「まじ?じゃあもらおー」
「お前じゃねぇよ」
口は悪くても、やっぱり作ったものを美味しいと言って食べてもらうのは嬉しくて、安藤さんがおかわりをする時には具材を大目に盛った。
「ね、これいっぱい野菜入ってるけど食べれる」
そう言いながら普段の晶なら絶対に食べそうにない緑黄色野菜をパクパク食べていく。
「全部蒸したり、切り方こだわったりしたから、苦くないでしょ」
「うん、甘くて美味しい」
睡眠欲、食欲が満たされたからなのか彼女がよく笑う。警戒心皆無なそれが、やっと懐いてくれた野良猫のようで。俺もつられて笑ってしまう。
「晶、俺といたら毎日食べれるよ」
「そういうのは違う」
距離感を間違えたらさっさと離れていくのも、また野良猫のようでもある。