恋愛戦争


そのあと殆ど同時に安藤さんと品川さんがそれぞれ車を横付けにしたので、また後でと言いお互いの車に乗り込んだ。


後ろを走る晶の車をバックミラーで見ながら後部座席のシートにぐっと背中を沈ませる。



「安藤さん、明日は朝何時?」

「11時に迎えに行くから準備しといて」

「2時にはあっちに着く?」

「うーん、平日だし特にイベントもないからそのぐらいだと思う」

「わかった。晶はその時間でいいって?」

「うん、なんか今日はアドレナリン出すぎて寝れないからって」

「ふーん」



確かに、今日の晶は昨日以上に集中力が凄かった。有無を言わさない雰囲気で次々と指示を出して食事もろくに取らずに永遠とシャッターを切っていた。


何によって突き動かされているのかは不明だが、彼女が新進気鋭のカメラマンとして注目を集める理由がよくわかる。


一瞬に一生懸命で、どこか必死にも見えるそれは酷く魅力的で、熱に果たされて欲情してもいいかななんて思うくらい。

いや、しないけど。


モデル側が、晶の熱に同調させられて、ぐっと世界に引っ張られて行く感覚がある。彼女の写真に写るモデル達は全員感情のこもった目をしていた。


悔しい、あの熱に浮かされた人間がたくさんいるという現実が。


ちなみに、俺は晶が撮った俺は1枚も見ていない。


晶が選ぶものが間違いないという理由と、恋する男の顔をした自分を見ていられないという二つの理由がある。


きっと俺も晶にとっては他のモデルと同じで、ただの被写体に過ぎない。だからこそそれを認めたくないという思いもある。



「写真集売れんのかな」

「どうした急に、随分とマイナスな見解だね」

「俺より晶の顔見たい人間の方が多そうだし」

「まぁ、それはそれで需要ありそうだな。美人だし」

「俺なんか顔がよくてスタイルがいいだけなのにな」

「南月のそういうところ嫌いじゃないけど外では言うなよ」

「いいじゃん。俺の持ちキャラなんだし」



くだらない会話の裏側で、小さな黒い雫が心の巣を作り始めたことを感じた。


俺は、晶に圧倒的な劣等感を抱いている。

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