恋愛戦争
それから30分程だらだらと会話をし、晶の部屋のお茶を飲みながら少し休憩して財布とスマホだけを持ちロビーに降りた。
ロビーにはスケジュール帳片手にスマホで通話中の安藤さんがおり、迷うことなくその前に腰掛ける。
通話中の彼に気を使って物音を立てないように静かにしていると、しばらくしてようやく切れた。
「ごめん、お待たせ」
「誰と何話してたの教えて」
「彼女かよ」
「だーれーとー」
「社長だよ、くれぐれも気をつけるようにーって」
なんだ社長か、もっと騒いでやればよかった。なんて内心思っていると今度は俺のスマホが鳴る。
メッセージが来ているのでそれを開くと短文が1つ。あ、やべ、約束の時間まであと少しだ。
「安藤さん、とーるちゃんのとこ行かないと」
「ああ、そうだな。車はもう回してもらったからこのまま行くぞ」
ちゃんと荷物もった?ほとんど手ぶらの俺と晶に聞いてくる。俺はおろか晶も小さいショルダーバッグとカメラ1代を提げているだけなのでそう聞いたのだろう。
「はい、大丈夫です」
「うん、じゃあ行きましょうか」
それからまたホテルを出て安藤さんの運転する車に乗り込む。目指すは昨日晶と話していた場所。
俺の叔父が経営する店だ。
賑やかなホテル街から抜けて下町を走ると、穏やかな街並みが広がる。
「いいとこだね、空気も綺麗」
窓ガラスから木々が立ち並ぶ外の風景を眺めている晶の表情は、ここ数ヶ月で見る中で一番幼く、安心しているように見えた。
事務所でもたまに出向いた大学でも、自宅でさえ常に見張られている空間の中で息が詰まり、相当なストレスを抱えていたはず。
その上仕事で結果を残す。というプレッシャーもある。束の間ではあるが少しでも休んで欲しかった。