恋愛戦争
「南月は晶ちゃんに何作ってあげたの?」
「大したもんじゃないよ。パスタとか、ちょっとしたスープとか」
「そっかぁ、俺も食べてみたいなぁ」
「また今度ね」
「ほんと?いえーい」
カウンターの中にあるキッチンで赤いチェックのエプロンを着けてとーるちゃんと横に並ぶ。
作られたホットケーキのタネを温められたホットプレートに流す。とーるちゃん厳選の小麦粉、バター、卵、そしてこだわりの豆乳で作られたホットケーキは匂いだけでなかったはずの食欲をそそられる。
なぜ牛乳じゃなく豆乳なのか。それはとーるちゃんの好きな人が牛乳アレルギーだかららしい。
好きな人のために作った一品は如何にもこうにも美味しくなる。
プツプツと空気が逃げる様子を見て生地を返す。
ふと、隣を見るととーるちゃんは俺の髪を見て真面目な顔をしている。
「どうしたの」
「去年、急に黒髪にしたのはびっくりしたなぁって思って」
「ああ、俺はもう慣れたけど、数回しか会ってないもんね」
「うん。晶ちゃんに言われたからって聞いてもっと驚いたけどね」
「どうして?」
「南月は人になに言われようと自分のスタンス崩さないでしょ」
ああ、確かにそうだな。と内心思った。学生時代だっていくら怒られようと、スプレーで染められ反省文を書かされようと金髪はやめなかったし。
きっとそれ以外も。大抵のことは自分で決めて来たし、アドバイス以外は聞き流して来た。
なのに、彼女に嫌われたくない。好かれたい。少しでも視界に入りたい。そう思えば自分の今までのスタンスなんてどうでもよく思えた。
急に金髪から黒髪に変えたことでイメージが変わり安藤さんには事前に言えと怒られたけど。
でも、晶の好きな俺でいれるなら怒られてもいい。晶以外の人間に嫌われてもいいと思えるくらい。
「晶は、俺の世界の全てなの」
ただその一言に尽きる。