眠れぬ夜に
翌日、案の定三人目が現れた

猫が殺された
そんな曰くを付加した女生徒だ

『私は霊感あるから金縛りにはならなかったけど…猫は来たよ』

今にして思えば
これは彼女の虚言だったのだろう

いや、もしかしたら二人目の時点で作り話だったのかも知れない

しかし、冷静さを失った子供達には
疑う余地もなく真実として受け入れられた

もはやパニックを抑える術はなかった

『猫の声がきこえる!』
授業中であるにも関わらず
そう叫んで泣き出す女子

男子達も明らかに狼狽していた

保健室へ逃げ込む者
早退を申し出る者
供養のためと給食を裏山に向かって投げ捨てる者までいた

突発的なパニックに襲われながらも
その日はなんとか放課後を迎えた

緊急の職員会議が開かれ
夜にはPTAも交えて対策会議が開かれた

翌日、私のクラスは臨時の学級閉鎖となった

家でゴロゴロしながら
私は考えていた

私の後の被害者の話は
明らかに私の体験よりも軽い

『猫の呪いが弱くなってんのかな?』

そう思った時
私は思い出した

三人目の被害者を自称した少女
彼女の虚言癖の事を

『アイツの話…嘘っぽいな…』

それが私の結論だった

そう考え始めると
猫が殺された
という話も急に胡散臭く感じた

私は祖母の言葉を思い出した

『怖い怖いと思ってたら幽霊は寄ってくる』

その頃の私は知る由もなかったが
恐らく私の金縛りも
思い込みから来るプラシーボ効果だったのだろう

理屈は理解していなかったが
自分の金縛りも猫の呪いなどではない
怖いと思う気持ちが招いたのだ
私はそう思い始めた

私の中でこの話は自己完結してしまった

翌日、いつも通り学校は再開され
そこにはいつも通りの教室があった

一日の冷却期間を経て
子供達も冷静になったのだろう

或いは、各家庭で父兄が気のせいだと言い聞かせたのかも知れない

ともあれ
我がクラスには平穏が戻り
猫の呪い事件は収束した

その後
クラスの誰一人として
この話題に触れる事はなかった

学校という閉鎖空間の中
狭い視野しか持たない子供達は
ちょっとした思い込みと集団心理から
時として狂気を孕む

それを思い知らされた体験だった
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