僕と三課と冷徹な天使
同期
昼休みになると、
「灰田君、食堂行こう」
とコオさんは言った。
初日だけのリップサービスかと
思っていたのでうれしい。
僕に尻尾があったら
激しく振っていると思う。
「あれが三課の新人か」と
注目されるのは嫌だけど
一人で視線に耐えるよりも
コオさんと二人のほうが心強いので
ハチ公のように忠実についていく。
お気に入りの唐揚げ定食をゲットし、
コオさんは今日も嬉しそうに食べ始める。
仕事中の厳しくて冷たい顔から
普通の女の子の顔になるこの瞬間。
僕は三課に配属されて良かった、と
安易に思ってしまう。
コオさんの嬉しそうな顔を
ちらちら見ながら
幸せをかみしめつつ食べる僕。
でも女の子と二人きり・・・
何だかまた緊張してきた。
するとコオさんは
「ごちそうさま~
コーヒー買ってくるね」
と言って立ち上がった。
僕はまだ半分しか食べ終わっていない。
焦って急いで食べ始めると
隣に誰かが立った。
気付いて見上げると、
同期の森本が立っていた。
「灰田君、元気~?
どうよ、総務三課は」
と話しかけてきた。
明るくて誰にでも話しかける森本とは
僕もたまに話したけど、
軽いノリが僕にはついていけず
それほど仲良くはなかった。
確か、営業に配属されたんだっけ。
「みんないい人で何とかやっているよ」
僕は無難に答えた。
「へ~落ちこぼれの三課に
馴染めるなんてすごいねえ。
灰田君はさすがだなあ」
何だかカチンとくる答えが返ってきたが
わざわざ自分から傷つくことはないと聞き流した。
こういう能力に僕は長けている。
気にせず急いで食べていると
「・・・あ、じゃあまたね」
と言って森本はそそくさと席を離れた。
すぐに
「ただいまー」
と言って、コオさんが戻ってきた。
「今の同期?」
森本の行ったほうを見ながらコオさんが言った。
「あ、そうです・・・」
森本を見るコオさんの表情が
あまりにも冷たく、
僕はなんとなく不安になった。
「あの子、どこのなんていう子?」
コオさんは森本の行ったほうを見ながら言った。
何だか僕は正直に答えたほうがいいような気がした。
「営業の森本君です・・・」
コオさんは
「ふーん」
と言ってコーヒーを一口飲んだ。
すぐに首から下げているPHSのボタンを押して
誰かに電話をかけはじめる。
何だか嫌な予感がした。
「・・・もしもし、反田部長ですか?
コオです。お疲れ様です。」
反田部長・・・営業の部長だ。
いきなり『コオです』で通じるのがすごい。
直属ではない、しかも部長クラスの人に。
嫌な予感を確信にするため、
僕は聞き耳を立てた。
するとそれに気付いたのか、
コオさんは横を向いて、
口元を隠しながら電話を続けた。
時折笑いながらも、
コオさんの眼光は鋭かった。
僕はコオさんを見てはいけない気がして
すすっている味噌汁をじっと見つめた。
電話が終わって、
コオさんはコーヒーを飲みながら
「はあ、食後のコーヒーはおいしいね」
と言って、にやっと笑った。
その顔はいたずらっ子のようで、
かわいくもあり、恐ろしくもあった。
コオさんの電話の内容はすぐにわかった。
食堂を出たあと、屋上で一人、
携帯をいじっていると森本がやってきた。
「灰田君。あの・・・さっきはごめん。
なんか嫌な言い方だったよな。
でもそんなつもりはなくて、
三課でがんばっててすごいなあと思ってさ・・・
本当にすごいよな、灰田君は」
何だか言い訳のようなことを言っている。
「・・・もしかして、反田部長に何か言われた?」
僕は率直に聞いてみた。
「あ、うん。いや、えーと、
そんなことはないんだけどさ~」
きっと森本は、根はいいやつなのだと思う。
ごまかそうとしているのはわかるが
全然ごまかせていない。
やっぱりコオさんの電話は森本のことだったんだ。
大の大人が上司にチクるのはどうかと思う。
でも、不思議と悪い気はしなかった。
きっと僕を心配してくれたんだろう。
しかし、もし森本が何も悪くなかったら
どうなったんだろう・・・
あまりコオさんに心配をかけるのはやめよう。
僕は心に誓った。
「灰田君、食堂行こう」
とコオさんは言った。
初日だけのリップサービスかと
思っていたのでうれしい。
僕に尻尾があったら
激しく振っていると思う。
「あれが三課の新人か」と
注目されるのは嫌だけど
一人で視線に耐えるよりも
コオさんと二人のほうが心強いので
ハチ公のように忠実についていく。
お気に入りの唐揚げ定食をゲットし、
コオさんは今日も嬉しそうに食べ始める。
仕事中の厳しくて冷たい顔から
普通の女の子の顔になるこの瞬間。
僕は三課に配属されて良かった、と
安易に思ってしまう。
コオさんの嬉しそうな顔を
ちらちら見ながら
幸せをかみしめつつ食べる僕。
でも女の子と二人きり・・・
何だかまた緊張してきた。
するとコオさんは
「ごちそうさま~
コーヒー買ってくるね」
と言って立ち上がった。
僕はまだ半分しか食べ終わっていない。
焦って急いで食べ始めると
隣に誰かが立った。
気付いて見上げると、
同期の森本が立っていた。
「灰田君、元気~?
どうよ、総務三課は」
と話しかけてきた。
明るくて誰にでも話しかける森本とは
僕もたまに話したけど、
軽いノリが僕にはついていけず
それほど仲良くはなかった。
確か、営業に配属されたんだっけ。
「みんないい人で何とかやっているよ」
僕は無難に答えた。
「へ~落ちこぼれの三課に
馴染めるなんてすごいねえ。
灰田君はさすがだなあ」
何だかカチンとくる答えが返ってきたが
わざわざ自分から傷つくことはないと聞き流した。
こういう能力に僕は長けている。
気にせず急いで食べていると
「・・・あ、じゃあまたね」
と言って森本はそそくさと席を離れた。
すぐに
「ただいまー」
と言って、コオさんが戻ってきた。
「今の同期?」
森本の行ったほうを見ながらコオさんが言った。
「あ、そうです・・・」
森本を見るコオさんの表情が
あまりにも冷たく、
僕はなんとなく不安になった。
「あの子、どこのなんていう子?」
コオさんは森本の行ったほうを見ながら言った。
何だか僕は正直に答えたほうがいいような気がした。
「営業の森本君です・・・」
コオさんは
「ふーん」
と言ってコーヒーを一口飲んだ。
すぐに首から下げているPHSのボタンを押して
誰かに電話をかけはじめる。
何だか嫌な予感がした。
「・・・もしもし、反田部長ですか?
コオです。お疲れ様です。」
反田部長・・・営業の部長だ。
いきなり『コオです』で通じるのがすごい。
直属ではない、しかも部長クラスの人に。
嫌な予感を確信にするため、
僕は聞き耳を立てた。
するとそれに気付いたのか、
コオさんは横を向いて、
口元を隠しながら電話を続けた。
時折笑いながらも、
コオさんの眼光は鋭かった。
僕はコオさんを見てはいけない気がして
すすっている味噌汁をじっと見つめた。
電話が終わって、
コオさんはコーヒーを飲みながら
「はあ、食後のコーヒーはおいしいね」
と言って、にやっと笑った。
その顔はいたずらっ子のようで、
かわいくもあり、恐ろしくもあった。
コオさんの電話の内容はすぐにわかった。
食堂を出たあと、屋上で一人、
携帯をいじっていると森本がやってきた。
「灰田君。あの・・・さっきはごめん。
なんか嫌な言い方だったよな。
でもそんなつもりはなくて、
三課でがんばっててすごいなあと思ってさ・・・
本当にすごいよな、灰田君は」
何だか言い訳のようなことを言っている。
「・・・もしかして、反田部長に何か言われた?」
僕は率直に聞いてみた。
「あ、うん。いや、えーと、
そんなことはないんだけどさ~」
きっと森本は、根はいいやつなのだと思う。
ごまかそうとしているのはわかるが
全然ごまかせていない。
やっぱりコオさんの電話は森本のことだったんだ。
大の大人が上司にチクるのはどうかと思う。
でも、不思議と悪い気はしなかった。
きっと僕を心配してくれたんだろう。
しかし、もし森本が何も悪くなかったら
どうなったんだろう・・・
あまりコオさんに心配をかけるのはやめよう。
僕は心に誓った。