僕と三課と冷徹な天使
総務三課
パソコンのセットアップ画面を
眺めながら、
僕はこっそり深呼吸して
緊張を抑えようと必死だった。
三課の静かな空気は
僕の心を焦らせた。
もしかして、新入社員は
お荷物だと思われていたりして・・・
喜んでくれているのは
課長だけなんじゃないか・・・?
持ち前のネガティブな妄想に
走りそうになる僕。
落ち着くために、
まわりを盗み見るように伺ってみた。
僕の右となりには男の人。
一生懸命パソコンを見ている。
向かいには女の人。
机の書類を見ている。
本当に
みんな落ちこぼれなのかな?
ちゃんと仕事をしているように
見えるけど・・・
と思っていると、
何かが聞こえてきた。
すー・・・すー・・・とそれは
一定のリズムで聞こえてくる。
何だろう?と耳を澄ましていると
突然
「フゴッ」
という音がした。
あ・・・いびきか!
誰か寝ているんだ・・・
自分が寝ているわけではないのに、
なんとなくバツが悪い気持ちになる。
すると、
「じゅん、よっしーを起こして」
低くて冷たい声で、
僕の隣から郡山さんが言った。
「は、はい。
吉田さん、起きてください。
コオさんがご立腹です」
じゅん、と呼ばれた人は、
ささやくように言っているが、
僕の席まで丸聞こえだから
郡山さんにも聞こえているはずだった。
「なんだよ・・・別にいいよ・・・」
吉田さんは起きようとしない。
郡山さんは
ガタッと勢いよく立ち上がると、
吉田さんの席までツカツカと行き、
紙をまるめたメガホンを
吉田さんの耳に当てて
「よっしー、おきろー!」
と大きな声で言った。
吉田さんは驚いてびくっとしながら
「わかったよ、起きるよ!」
と言って椅子に座りなおした。
「じゅん、エロサイトは家で見て。
あっこ、マンガは昼休みにして。
八木も、競馬新聞しまえ」
先ほどのまっすぐで綺麗な瞳は
幻だったのだろうか、と思うほど
氷のように冷徹な視線を投げながら、
郡山さんは全員を注意した。
そして自分の席に戻り、
パソコンに向かった。
僕は何も言われていないのに、
何だか一緒に叱られたように
申し訳ない気持ちになった。
隣の席をチラッと見ると、郡山さんは
何事もなかったかのように
仕事に戻っている。
「コオ、いきなり
全員のダメっぷりを晒すなよ」
居眠りをしていた吉田さんが
あくびをしながら言った。
「そうですよ。新人君、
ドン引きじゃないですか」
僕の向かいに座っている女の人が、
書類の間に挟んでいたマンガを
しまいながら言う。
「ていうか、コオさん、
僕らのことを紹介してくれないんですか?」
僕の隣に座っている
じゅん、と呼ばれた男の人が言った。
「・・・あー、はいはい。」
面倒くさそうにコオさんは立ち上がって
「灰田君のとなりから、
一個上の坂本潤。二個上の吉田幸助。
一個上の田中淳子。二個上の八木洋平。
私は二個上の郡山。以上」
とひとりひとりを指差しながら
名前を言った。
そしてすぐまた
パソコンに向かってしまった。
僕は早口すぎる紹介を頭の中で繰り返した。
「なにその適当な紹介!
もっとなんかないの?」
吉田さんが文句を言う。
「仕事が出来て、
頼れる吉田君です。とかさあ」
吉田さんの言葉を受けて
コオさんは
「仕事はしないし、
寝てばかりでセクハラ王です」
と冷ややかに言う。
「あはは、セクハラ王だわ。
灰田君、この人のすること
真似しちゃだめよ」
と僕の前のあっこさんが笑いながら言う。
圧倒されている僕は
薄ら笑いを返すことしかできない。
「コオは冷たすぎるんだよ!愛が無い!」
吉田さんがコオさんを反撃する。
「仕事をためてばかりで
尻拭いさせられている人に、
どう愛情を持てと?」
コオさんが冷ややかな一瞥を投げながら言う。
「まったく・・・こんな冷たい女が
新人担当で大丈夫かねえ。
灰田君、僕がきちんと
フォローするから安心したまえ」
コオさんに言い返せない
吉田さんが僕に言った。
全く安心できないが
とりあえず僕はうなずく。
「自分のフォローをちゃんとしろっつーの」
と、ひとりごとのように
言ったあと、コオさんは
「よっしー、あの今日までの書類、絶対あげてね」
と厳しく続けた。
「あーあ、愛が無い。
愛が無いよ、あいつは」
じゅんさんに言いながら
吉田さんは渋々パソコンに向かった。
そして、再び三課は静けさに包まれた。
こ、これが噂の三課の実体か・・・
僕はやはりすごい所に
配属されてしまったようだ。
綺麗だけど怖い人vsサボりたい人たち
僕はどちらにまわればいいんだろう。
・・・どう考えても
コオさんを敵に回すことはできない。
あんな目で睨まれたら
死んでしまう・・・
僕はまじめに仕事をしよう。
そう心に誓った。
眺めながら、
僕はこっそり深呼吸して
緊張を抑えようと必死だった。
三課の静かな空気は
僕の心を焦らせた。
もしかして、新入社員は
お荷物だと思われていたりして・・・
喜んでくれているのは
課長だけなんじゃないか・・・?
持ち前のネガティブな妄想に
走りそうになる僕。
落ち着くために、
まわりを盗み見るように伺ってみた。
僕の右となりには男の人。
一生懸命パソコンを見ている。
向かいには女の人。
机の書類を見ている。
本当に
みんな落ちこぼれなのかな?
ちゃんと仕事をしているように
見えるけど・・・
と思っていると、
何かが聞こえてきた。
すー・・・すー・・・とそれは
一定のリズムで聞こえてくる。
何だろう?と耳を澄ましていると
突然
「フゴッ」
という音がした。
あ・・・いびきか!
誰か寝ているんだ・・・
自分が寝ているわけではないのに、
なんとなくバツが悪い気持ちになる。
すると、
「じゅん、よっしーを起こして」
低くて冷たい声で、
僕の隣から郡山さんが言った。
「は、はい。
吉田さん、起きてください。
コオさんがご立腹です」
じゅん、と呼ばれた人は、
ささやくように言っているが、
僕の席まで丸聞こえだから
郡山さんにも聞こえているはずだった。
「なんだよ・・・別にいいよ・・・」
吉田さんは起きようとしない。
郡山さんは
ガタッと勢いよく立ち上がると、
吉田さんの席までツカツカと行き、
紙をまるめたメガホンを
吉田さんの耳に当てて
「よっしー、おきろー!」
と大きな声で言った。
吉田さんは驚いてびくっとしながら
「わかったよ、起きるよ!」
と言って椅子に座りなおした。
「じゅん、エロサイトは家で見て。
あっこ、マンガは昼休みにして。
八木も、競馬新聞しまえ」
先ほどのまっすぐで綺麗な瞳は
幻だったのだろうか、と思うほど
氷のように冷徹な視線を投げながら、
郡山さんは全員を注意した。
そして自分の席に戻り、
パソコンに向かった。
僕は何も言われていないのに、
何だか一緒に叱られたように
申し訳ない気持ちになった。
隣の席をチラッと見ると、郡山さんは
何事もなかったかのように
仕事に戻っている。
「コオ、いきなり
全員のダメっぷりを晒すなよ」
居眠りをしていた吉田さんが
あくびをしながら言った。
「そうですよ。新人君、
ドン引きじゃないですか」
僕の向かいに座っている女の人が、
書類の間に挟んでいたマンガを
しまいながら言う。
「ていうか、コオさん、
僕らのことを紹介してくれないんですか?」
僕の隣に座っている
じゅん、と呼ばれた男の人が言った。
「・・・あー、はいはい。」
面倒くさそうにコオさんは立ち上がって
「灰田君のとなりから、
一個上の坂本潤。二個上の吉田幸助。
一個上の田中淳子。二個上の八木洋平。
私は二個上の郡山。以上」
とひとりひとりを指差しながら
名前を言った。
そしてすぐまた
パソコンに向かってしまった。
僕は早口すぎる紹介を頭の中で繰り返した。
「なにその適当な紹介!
もっとなんかないの?」
吉田さんが文句を言う。
「仕事が出来て、
頼れる吉田君です。とかさあ」
吉田さんの言葉を受けて
コオさんは
「仕事はしないし、
寝てばかりでセクハラ王です」
と冷ややかに言う。
「あはは、セクハラ王だわ。
灰田君、この人のすること
真似しちゃだめよ」
と僕の前のあっこさんが笑いながら言う。
圧倒されている僕は
薄ら笑いを返すことしかできない。
「コオは冷たすぎるんだよ!愛が無い!」
吉田さんがコオさんを反撃する。
「仕事をためてばかりで
尻拭いさせられている人に、
どう愛情を持てと?」
コオさんが冷ややかな一瞥を投げながら言う。
「まったく・・・こんな冷たい女が
新人担当で大丈夫かねえ。
灰田君、僕がきちんと
フォローするから安心したまえ」
コオさんに言い返せない
吉田さんが僕に言った。
全く安心できないが
とりあえず僕はうなずく。
「自分のフォローをちゃんとしろっつーの」
と、ひとりごとのように
言ったあと、コオさんは
「よっしー、あの今日までの書類、絶対あげてね」
と厳しく続けた。
「あーあ、愛が無い。
愛が無いよ、あいつは」
じゅんさんに言いながら
吉田さんは渋々パソコンに向かった。
そして、再び三課は静けさに包まれた。
こ、これが噂の三課の実体か・・・
僕はやはりすごい所に
配属されてしまったようだ。
綺麗だけど怖い人vsサボりたい人たち
僕はどちらにまわればいいんだろう。
・・・どう考えても
コオさんを敵に回すことはできない。
あんな目で睨まれたら
死んでしまう・・・
僕はまじめに仕事をしよう。
そう心に誓った。