僕と三課と冷徹な天使

ほうれんそう

「ただいまー」

コオさんはやっぱり不機嫌そうに
会議から帰ってきた。

「お疲れ様です」

吉田さんの進捗確認をしていた僕は
立ち上がって声をかける。

僕に怒っていて機嫌が悪いのか、
会議が長くて機嫌が悪いのか、
見極めたかったけど
全然わからなかった。

コオさんは僕の顔を見て

「あー･･･灰田、ちょっと時間ある？」

と聞いた。

「あ、はい、大丈夫です」

吉田さんの進捗が思わしくなく、
確認が進まないので、ちょうどよかった。

そして、僕を見たコオさんの顔が
怒っていなかったので安心した。

「じゃ、ちょっと会議室行こう」

コオさんはそう言って
三課を出て行く。

安心できたのは、つかの間だった。

会議室に行く必要がある話って･･･？

もしかして、クビ？

そんなにひどいミスだった？

どうしよう･･･

コオさんは小会議室に入って
椅子に座るなり

「さっきは怒りすぎた。ごめん」

と謝った。

あ、大丈夫かも、と思って

「僕も勝手なことをしてすみませんでした」

と答える。

「うん。灰田が八木のために
　電話しようとした気持ちは
　ありがたいんだけど
　やっぱり私に確認してほしかったんだ」

真面目な顔でコオさんは続けた。

「灰田、ほうれんそうって研修で聞いたの
　覚えてる？」

「･･･はい。報告・連絡・相談、ですよね」

ちゃんと聞いていないと
クビになる、と必死だったので
研修の内容はしっかり覚えている。

「うん。
　要はコミュニケーションだと思うんだ･･･
　今回のことは、八木が電話しようが、
　灰田が電話しようが、
　それはどっちでもよくて･･･
　その過程が大事だと私は思ってて･･･」

言葉を選んでゆっくり話すコオさん。

真剣さが伝わってくる。

「仕事なんてさ･･･
　結局言われたことをやっていれば
　いいものなんだけど･･･
　でもそれじゃ、
　何も残らないと思うんだよね」

細くて白い指を何度も組みなおして
コオさんは続ける。

「その仕事に取り組んでいる途中で
　色んな人と関わって、
　色々思って、成長していくから
　仕事って面白いと思ってて･･･
　･･･ってこの話はいいか」

いや、聞きたいです、と思ったけど
コオさんが話し始めたので言わなかった。

「まあ要するに、何でも言ってほしいんだ･･･
　こんな私だから
　言いづらいとは思うんだけど、
　できればそれも言ってほしくて。
　コオさんが怖くて言えないです、
　でもいいから･･･
　･･･全部言って？」

うつむきがちに話していた顔が僕を見る。

上目遣いになっていて、
ちょっとかわいい。

こんな真面目な場面で
そんな不謹慎なことを思う僕って･･･

思っていること全部なんて
とても言えないけど、
とにかく

「はい」

と僕は答えた。

「･･･ありがとう」

とはにかんだようにコオさんは笑った。