僕と三課と冷徹な天使

森本の意見

食堂を出て三課に戻ると、
コオさんはいつものようにデスクで寝ていた。

新歓の話をしたかったけど、
コオさんの憩いの時間を
邪魔してはいけないと思い、やめておいた。

屋上に行くと森本がやってきた。

「どうよ、コオさんは元気?」

悪気はないんだろうけど、
タイミングの悪い質問をする男だ。

でも森本の意見も聞いてみようかな。

「今度、三課で新人歓迎会をしてくれるんだけど
 コオさん、気が乗らないみたいなんだよね」

「へ~、お酒好きそうに見えるけどなあ。
 うーん・・・
 何か嫌な思い出でもあるのかな」

飲み会で嫌な思い出かあ。

僕にはたくさんある。

大学で友達のサークルの飲み会に
無理やり連れて行かれて
泥酔したあげくに置きざりにされた・・・

思い出して何だか落ち込んできた。

「コオさん、見た目はモテそうだから
 男がらみで何か嫌な思い出でもあるとか」

森本の言葉で現実に返る僕。

「酒の席ってみんなオープンになるから
 女の争いに巻き込まれたりしてさ」

あ~・・・そういうことありそう。

普段は怖いコオさんに
酒の勢いで何か言う人、いそうだなあ。

でも、と思って僕は言った。

「新歓は三課のメンバーしかいないんだよ。
 普段から思いっきり
 言いたいこと言い合ってるから
 それはないよ」

三課のメンバーは
本当に言わなくてもいいことまで言い合っている。

午前中、吉田さんがコオさんに逆切れして
『お前の前世は悪魔だ!』って言ってたなあ。

大人が会社で言うことじゃあない・・・

「うーん・・・じゃあ
 コオさん、酒癖が悪いんじゃないの?
 普段怖いから、泣き上戸とか」

森本が言う。

そっか。そういう可能性もあるなあ。

泣いているコオさん・・・かわいいかも。

そう思って、僕は

「泣き上戸ならいいなあ。
 あ、でもそうじゃなくて
 くどくど説教されたりして・・・」

と言うと森本は

「普段みんなに説教してるから
 それはないと思うよ。」

いや、コオさんは怖いけど、
長ったらしい説教なんてしないんだ。

ものすごい一言を
爆弾のように言って
ばっさり切るタイプなんだから。

そんなことを森本に言っても
コオさんの株が下がる一方だからやめた。

森本はコオさんと話したことがないのに
『普段怖い』
と当たり前のように言わせてしまうのは
完全に僕のせいだし。

「森本、ありがとう。
 コオさんにさりげなく聞いてみる」

森本と話をしていたら
何とかなる気がして元気が出てきた。

「うん。
 機嫌のいいときに聞きなね」

僕は本当にそうだなあと
深くうなづきながら、

明日は森本にコオさんのいいところを
たくさん話そう、と思った。
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