僕と三課と冷徹な天使

お呼び

屋上から三課に戻ると
コオさんは起きてパソコンに向かっていた。

まだ昼休み中だから
新歓の話をしたいけど、めずらしく全員いる。

絶対みんな聞き耳をたてるだろうから
またあとにしよう、
と僕は仕事の準備を始めた。

すると、吉田さんが

「そういや、新歓の場所おさえたぞ。」

と言ってコオさんのデスクにやってきた。

コオさんにスマホを見せながら

「ほらここ。いい店だろ」

と言った。

「ふーん。いい感じじゃん」

「一度行ったことがあるんだけど
 酒も料理もうまかったぞ」

「へー。たのしみー」

棒読みのようにコオさんは言った。

「おまえなあ。主役の
 灰田の隣でそのテンションは無いだろ」

「じゃあ、灰田が隣にいるのに
 飲み会の話を振らないでよ。
 絶対おもしろがってるくせに」

「そんなことないよ」

完全におもしろがっている顔で吉田さんは言った。

「大丈夫だって。なあ灰田」

何が大丈夫なのか全然わからない。

でも、僕だけが知らないことがある
ということはなんとなくわかる。

「・・・はい」

とりあえず返事はしておいた。

きっと他のみんなは
コオさんの憂鬱の原因を知っているのだろう。

何だか僕は一人ぼっちな気がして
さみしくなった。

すると、電話が鳴った。

すかさず取る僕。

「はい、総務三課です。
 ・・・お疲れ様です。
 ・・・はい、少々お待ちください。
 コオさん、松井課長からお電話です。」

「松井課長?なんだろう・・・」

と言ってコオさんは
怪訝な顔をして電話に出た。

そして、電話が終わるとコオさんは
意外なことを言った。

「灰田、松井課長が総務一課に
 手伝いに来てほしいって」

僕も驚いたが
コオさんも驚いている。

「すぐ行ける?」

「はい、大丈夫です」

僕は立ち上がった。

「行きかた、わかるよね。
 あ、PHS一応持っていって」

最近僕に支給されたPHSを渡すコオさん。

何だかお母さんみたい。

「じゃ、いってらっしゃい」

ちょっと心配そうに見送ってくれる。

「いってきます」

僕も不安げに三課を出る。

僕が一課でできることなんてあるのだろうか。

・・・ちょっと胃が痛くなってきた。

先が思いやられる。

いやいや、前に松井課長は
僕を褒めてくれたじゃないか。

自分を励ましながら
僕は総務一課に向かった。
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