僕と三課と冷徹な天使

掃除

今日のリクエストは鍋だった。

たくさんの野菜を持って
コオさんの家へ向かう。

二回目なので、
あまり緊張していないな、
と余裕ぶっていると
寄りかかられたことを思い出す。

今日はコオさんが飲む前に帰ろう
と思っていると
一年前の自分が恨めしそうに
僕を見ていることに気付く。

わかったよ。

ありがたく受け止めるよ･･･

また鼓動がはやくなり
緊張しはじめる。

その緊張をかき消すかのように
コオさんの部屋は相変わらず汚かった。

しかし、僕は作戦を練ってきたので
ひるまない。

「コオさんは
　いるものといらないものをわけてください。
　あとは僕が片付けます」

コオさんは戸惑っているように見えたが、

「わかった」

と言ってマンガの山の前に座った。

が、マンガを見つめたまま動かない。

僕は助け船を出した。

「コオさんは一度読んだマンガを
　読みなおしますか？」

コオさんは首をふった。

「じゃ、全部売っちゃいましょう」

と言って、僕は
空いている段ボールに次々とマンガを入れた。

コオさんは固まっていた。

でも僕は気にしないで言った。

「これ聞かないなっていうCDは売っちゃって、
　聞くかもしれないCDはパソコンに取り込みます。
　よく聞くCDは棚にしまってください」

てきぱきと指示する僕に
コオさんは呆気にとられていた。

「はやく決めてもらえないと、
　全部売っちゃいます」

と僕が言うと

「はい」

と言ってCDを選びはじめた。

素直でかわいい。

でも今日はできるだけ片付けて
少しでもキレイな場所でご飯を食べたい。

見とれている暇はないのだ。

僕は空き箱とかコンビニの袋とか
あからさまにいらないものを片付けながら、
選び続けるコオさんに助言をし続けた。


日が暮れてきて、コオさんは

「灰田～お腹減った」

と疲れた顔で言った。

見渡すと見える床の面積が増えている。

ちょっと満足した僕は

「じゃ、ご飯の支度します。」

と言って僕は台所へ行った。

するとコオさんもついてきた。

「疲れたんじゃないですか？
　ビ、ビールでも飲んで休んでてください」

と僕は少しドキドキしながら言った。

コオさんは少し目を輝かせたが

「手伝います」

と言って袖をまくり、まな板を出した。

えっ、できるの？と思っていると

「野菜を切るくらいはできる」

と得意の読心術で言った。

ぼくは驚きつつ、

「じゃ、お願いします」

と言って野菜を洗った。

宣言通り、コオさんは次々と野菜を切り、
鍋に入れていく。

僕が密かにびっくりしていると

「去年まではよく作ってたんだ。
　時間が無くなっちゃって、今は全然だけど」

コオさんは言った。

「部長が三課の課長だったときは
　もう少し楽だったんだけどね」

そうだったんだ。
それで部長と仲がいいんだ。

「でも、灰田が来て
　またちょっと楽になってきた。
　･･･ありがとう」

突然の告白にうろたえる僕を見ずに

「あとはいいよね。じゃ、テレビ見てる」

と言ってコオさんは
まな板を洗って行ってしまった。

僕は、まだ食べていないのに
温かくなった心を抱きながら
鍋を作った。