僕と三課と冷徹な天使

ランチタイム1

♪キーンコーンカーンコーン♪

12時になると、
この会社は学校のようなチャイムが鳴る。

「あー、めしだー」

吉田さんが伸びをしながら言う。

「じゅんとよっしー、
 灰田君もランチ連れて行ってよ」

コオさんがパソコンの画面を
消しながら言った。

「あー・・・僕らはそのー・・・」

じゅんさんが言いにくそうにしていると、
吉田さんが

「悪い、俺らランチ合コン」

とニヤニヤしながら言って、
そそくさと背広を着る。

コオさんの目が一瞬冷ややかになったが、
すぐ僕に

「灰田君、私は社員食堂に行くけど、どうする?
 一人で外に行ってもいいし、
 自由にしていいんだけど」

と言った。

僕は社員食堂のごはんが大好きだった。

温かい家庭料理で、
一人暮らしの身にしみるのだ。

いつも会社での昼ごはんは社員食堂で、
と決めていた。

でも・・・

八木さんとあっこさんは
競馬新聞とマンガ片手に
デスクでお弁当を食べ始めているから、

どうやらコオさんと
ふたりきりで行くことになる・・・

究極ともいえる選択に僕は愕然となりながらも、
早く決めないと、と焦った。

「食堂に行きます」

僕の口が勝手に答えていた。

コオさんの目が丸くなった気がした。

意外な答えだったのかもしれない。

自分でも驚いたから
コオさんが驚くのも無理はない。

でもすぐに

「じゃ、行こうか」

とコオさんは食堂に向かって歩き始めた。

颯爽と歩くコオさんのあとを、
僕は追いかけた。

連れがいるようには見えない速度で
歩いていくので、必死だった。

食堂に着き食券売り場に並ぶと、
コオさんは振り返って、

「ごめん、唐揚げ定食がすぐ無くなるから急いだ」

と僕に言った。

本当はひとりで行きたくて、
僕を撒こうとしているんじゃないか、
と思い始めていたので、ほっとした。

そして、コオさんが急いだ理由が
何だかかわいくて、

「大丈夫です」

と僕は少し笑って言った。


無事、コオさんは唐揚げ定食を手に入れて、
僕らはテーブルに座った。

コオさんと向かい合って座るのは初めてだ。

・・・緊張する。

そんな僕を気にも留めない様子で、
コオさんは

「いただきまーす」

と食べ始める。

「いただきます」

僕も小さな声で言って、
つられて頼んだ唐揚げ定食を食べ始めた。

「揚げたて最高~」

と嬉しそうに唐揚げを頬張るコオさんは
ただの女の子で、
三課での鬼リーダーぶりが嘘のようだった。

僕はつい見とれそうになるの抑えて、
コオさんから目をそらしながら食べた。

ドキドキして、唐揚げの味がよくわからない。

ふと、女の子と二人で
こんな風にご飯を食べたこと、
今まであったっけ?と思った。

僕の暗黒の歴史を思い返す。

・・・まったく無い。

お母さんと二人でご飯を食べることならあった。

でもそれをカウントしてしまったら、
終わりだろう。

ということは、初体験なわけだ・・・

妙なプレッシャーで手が震えてきた。

唐揚げを落としそうになってしまう。

これはまずい。

ちょっと他の事を考えよう。

・・・そうだ、食堂を観察しよう。

食堂の机の色は白で、
使い込んでいるが、綺麗に手入れされている。

などと意味の無いことを思って、
僕は気を紛らわすことにした。
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