僕と三課と冷徹な天使

ランチタイム2

僕は食堂の観察を相変わらず続けていた。

椅子も白だなあ、
白で統一しているのかなあ、などと
無我の境地で考えていると、
まわりの人とよく目が合うことに気づいた。

一度気づくと、みんなと目が合うような気がする。

コオさんは唐揚げに夢中で気づかないようだが、
どう考えても僕らは注目されていた。

気になると落ち着かなくなってきた。

ちらちらと周りを気にしながら食べる僕に、
コオさんが気づいたようで

「・・・あー、総務三課の新人が気になるんだよ。
 みんな大好きだからねえ、三課のこと」

と気にも留めない様子で言った。

そうか、
コオさんと新入社員の僕が一緒にいるということは、
総務三課の新入社員が僕だということを
皆に知らせていることになるのか・・・

「何しても注目されるのが三課だから。
 慣れるしかない」

コオさんが冷ややかに言った。

落ちこぼれの三課に配属された、
という重みを身にしみて感じた。

これから何をしても
こうして注目されるんだ。
僕はやっていけるのだろうか。

楽しいはずのランチタイムが
一気に憂鬱なものになって、
食欲もなくなってきた。

そこに

「おー、仲良くしてるかー」

と声をかけてきたのは宮崎部長だった。

総務は一課から三課まであって、
その課全部を統括しているのが
この宮崎部長だった。

新人研修でも度々お世話になっていて
親しみはあるが、直属の上司と違って、
簡単に声をかけられない目上の上司だ。

僕は思わず背筋をのばした。

部長はコオさんの隣に座り

「相変わらず唐揚げか」

とつぶやいた。

「部長はまた胃がおかしいんですか」

部長が持ってきたうどんを見て
コオさんは言った。

「かわいい部下が悩ませてくれるんだよ。
 な、コオ」

と部長はコオさんをひじでつついた。

コオさんはふふっと笑った。

二人はずいぶん親しげで、
僕は緊張感よりも疎外感を感じはじめた。

それに気づいてるのかいないのか、部長は

「灰田君、三課はどう?大丈夫?」

と僕に言った。

今大丈夫じゃない気分でした、とは言えず

「・・・はい。大丈夫です」

何が大丈夫なんだ、と自分でつっこみながら
僕は言った。

「そうか。それは良かった。
 灰田君が来てくれて良かったよなあ。コオ」

と意外な話を部長はコオさんにふった。

「まあ、新入社員が入ってくれるだけで
 ありがたいです」

とコオさんは淡々と言った。

「つれないなあ~。
 本当は嬉しいくせに~」

とまた部長はコオさんを肘でつついた。

研修中は厳しかったけど、
こんなに気さくな人だったんだ。

それともコオさんだからなのかな・・・?

僕は何だか胸が少しもやもやした。

さっさと唐揚げ定食をたいらげたコオさんは

「コーヒー買ってきます。」

と立ち上がって
自動販売機のほうへ歩いていった。

コオさんがいないのを確認した部長は

「あいつは口下手だから
 何も言わないと思うけど、
 灰田君が三課に来てくれてうれしいし、
 本当はとても期待しているんだよ」

と小声で言った。

え?そうなの・・・?

意外な言葉に僕は驚いた。

でも僕の紹介の時、
歓迎ムードは全くなかったし、
その後も、僕に
期待してくれている感じはしなかった。

外線電話を取ったときは、
笑顔を僕に向けてくれたけど・・・

部長のリップサービスだな、これは。

すると部長が

「信じられないかもしれないけど、
 本当だからね」

と言った。

僕はあからさまにびっくりしてしまった。

「本当にコオも僕も、
 キミには期待しているから」

畳み掛けるように部長は言った。

「はい・・・ありがとうございます」

と僕は言うしかなかった。

期待している、かあ。

悪い気はしないけど、
やっぱり僕には不釣合いな言葉だ。

でも、その言葉は何となく心にひっかかって
じわっと温かい空気を放っていた。

僕は周囲の目を気にしていたことを
すっかり忘れていた。
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