砂糖漬け紳士の食べ方
いよいよ取材初日。
ビルの隙間から覗く冬空は、彼女がイラつくほどに青々としていた。
結論、編集部で集め読んだ雑誌から、あの一癖ありそうな画家からすんなりインタビュー内容を聞き出せる手立ては何一つ発見できなかった。
編集長が言っていた『伊達圭介は甘党』という、あまり役に立ちそうにない情報を思い切り振りかざすしかなく、アキは早朝から銀座で有名なロールケーキ屋へ並んだ。
名付けて『伊達圭介甘いもの懐柔作戦』。
モノをもらって嫌な人間はいない、とどこの誰かが言っていたし、それが好きなものなら尚更のはずである。
そして、作戦成功にはなるべく上等なお菓子が必要不可欠、という理由からだった。
戦利品は、某グルメサイトランキング上位のロールケーキ一本。
甘いものの力は、強し。…と信じたい。
ロールケーキという武器を手に入れたアキは、相変わらずうんざりするほどに高級なマンションに足を踏み入れた。
エントランスにて、あの時の編集長と同じようにインターホンの番号を一つ一つゆっくりと押す。
…2、5、0、4。
二、三回ほどの呼び出し音ののち、あの時と同じように一本調子の声がロビーへ響いた。
『…はい』
伊達だ。
アキはごくり唾を飲み込み、意気揚々とマイクへ顔を近づけた。
「おはようございます!月刊キャンバニストの桜井と申します」
2コンマの沈黙ののち、しかしマイクからは無言のまま、エントランス奥の扉ロックが解錠された。
いざ、鎌倉!
…違った、いざ、伊達圭介の取材へ。