砂糖漬け紳士の食べ方

伊達の無言の圧力がさらに増したため、アキは破れたストッキングを嫌々脱ぐ。

しかし右ひざの部分はもうズタズタに千切れていて、こうして脱いでしまえばボロ布と大して差はなかった。


アキの勝手な羞恥心は別として、彼は特段彼女の素足に何の反応も示さなかった。



そうだろうな、考えてみれば14歳も年下なんだから…。





彼の口元の怪我と同じように、アキのソレももう固まっていた。


ただ、皮膚の薄いところを切ってしまったようで、
まるでスプラッタ映画のように赤黒い染みはべったりと膝を汚している。


剥がれかかった一番薄い表皮とむき出しになった肉とを見るなり、伊達は大きく眉をしかめた。



「…土はついてないな」


そう言い、彼の視線は救急箱の中を往復した。


そして消毒液とガーゼを取り出し、中身をそこへたっぷりとぶちまけた。

消毒液特有のキツイ匂いが、ふわりと彼女の鼻をくすぐる。




「染みるだろうけど我慢しなさい」


突然皮膚を覆った冷たさと、そして容赦なく痛感を貫いた消毒の痛みに「ぎゃあ」とアキが汚い声をあげた。



ちょっと染みます、なんてレベルじゃない。
千枚通しで、グリグリと虐められるような、殺意すら沸く痛みだ。




「痛い痛い痛い!伊達さん痛いです!」

「はいはいはい暴れない」



暴れる細い足を、伊達はやすやすと片手で制し、しかも更に消毒液を増やすという鬼畜な所業に出た。



「痛い!痛いってば、本当に!」

「はいはいはい我慢我慢」



もはや彼女は半泣きに近かった。

消毒を終えても、右ひざはまだビリビリ痺れている。


柔らかな白いガーゼが皮膚を埋めていく頃になってようやく、アキはまともに目の前の伊達を見下ろせた。




彼は手際よくガーゼを交換し、膝の血を拭き取っていく。
ソファに座るアキからは、くしゃくしゃな黒髪くらいしか見えない。



熱い膝に時折触れる、彼の指と掌。

それは少しひんやりと冷たく、すんなりとして、…そして彼女と違って骨骨しい、男の人の手だ。




こんな長い時間、近くで伊達さんを見るのは初めてかもしれない、とアキがふいに気づいた。



あの伊達圭介が、跪いて彼女の足に触れる。

その光景は一見すれば、まるで姫に仕える騎士、の、ような…。



「…………………」


アキは慌てて思考を打ち消した。
そんなピンク色の妄想は、まるで彼に恋しているようではないか、と。



どくどく、と体中の血液が内側からノックするような熱い感覚を覚える。



それは、遠い昔、アキが中学校の先輩に憧れた時と同じ────。





「もし化膿するようだったら、すぐ病院へ行きなさい。分かったね?」


手当を終えた伊達が、まるでオイタをした子供を諭すように柔らかく言った。




「あの、伊達さん」

「何だい」

「…あの後、バーに行かれたんじゃなかったんですか」


伊達がチラとアキを見上げ、立ち上がった。

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