砂糖漬け紳士の食べ方

もう、月は真上に上がっていた。



強烈な喉の渇きに目をこじ開ける。

彼女はいつかと同じベッドで身を横たえていた。

伊達の寝室だ。



「………」


一瞬、アキは自分の現在地に困惑したが、すぐさま伊達のマンションに来ていたことを思い出す。


ベッドにはアキだけで、伊達の姿はなかった。
どうやらいつの間にか寝てしまって、彼がここで寝かせてくれたらしかった。




しばらく。

自分がここに来てやらかした事を思い出し、慌てて目元に指をやる。

彼に気付かれないように零した1滴の涙は、もう乾いていた。


着ていたブラウスが皺だらけになりながらも、アキはベッドから身を起こす。

伊達はどこだろうか。




リビングに出ると、彼はすぐに見つかった。作業部屋の扉から、微かに光の筋が漏れていたのだ。


暗い室内でも余計な物音を立てないように、アキはそっと寝室を出る。




「…どうしたんだい」


作業部屋の扉越しに被さってきた声に、ギクリと体を震わせる。

振りかえると、伊達が背伸びをしながら椅子をこちらへ向けていた。




「…すみません、邪魔するつもりはなかったんですが」

「いや、大丈夫。休憩しようと思っていたから。で、何?」



欠伸を噛み殺す彼の声は、ふにゃふにゃと実態のない柔らかさを帯びていた。


作業室の大きな机には、今しがたまでかかっていたらしいデザイン画があった。

そのタッチは「ふわふわ女子が好きそうな」ものだ。




「ちょっと喉が渇いちゃって」

「…」


アキの苦笑いに、伊達が何を思ったのか、椅子から立ち上がった。




「どうせだから、ミルクティーでも作ろう」

「でしたら私が淹れます」

「いいよ。君はソファへ座ってなさい」


すれ違いざま、彼の手はまたも彼女の頭を軽くポンポンと撫でた。


どうしようもない、たったこれだけでアキの眠気はあっさりと吹き飛ぶ。

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