砂糖漬け紳士の食べ方
「伊達さん」
アキの声に、うなだれていた伊達が顔をあげた。
「私は画家でないし、あなたでもない。
だからあなたの気持ちが分かります、なんて簡単に言えません。
…でも」
マグを握る手に、力が入る。
「でも、悲しい時、一緒にいることは出来ますから」
二人の視線が、ゆらりと絡む。
伊達はふと、長い息を吐いた。
「…君ね、お人よしなのは程々にしなさい。でないと、昨日みたいな男らに絡まれるよ」
「大丈夫です!ああいう人は、綾子みたいな可愛い子しか声かけませんし!」
「……………」
伊達は無言で彼女を見上げる。
「じゃあ、何でこの私が、君を面接で合格させたか分かる?」
「えっ、からかい甲斐があるからですよね」
その言葉に、彼は「ばかだね」と言いつつ、より一層大きなため息をついてみせた。
「今まで私のところに取材を申し込んできた人らは、それこそ評論雑誌が描くような理想的な感想を用意してきた。
やれ色遣いがいいだの、モチーフがいいだの、と…」
彼は肩をすくめる。
「だから山本さんから話があった時も、適当に断ろうと思ってた。
どうせ今回も上っ面しか見ていない奴だろう、と」
聞きいるアキに、伊達は薄く笑う。
情を含めて。
「…私の絵を『好きだ』と言ったのは、君だけだったんだ」
自分の絵を好きだと言ってくれる人がいるなんて、考えたことがなかった。伊達はそう続けた。
「本当に好きなものに対して、それらしい感想なんて出やしない。
本能的に好きだと思うから、好きなんだ」
「そしてね。君、自分では気づいてないようだけど、
私にそう話した時、君は本当に良い笑顔をしていたんだよ」
伊達が、薄く笑う。
くしゃくしゃな前髪が揺れる。
すう、とすがめられる目に、アキはとらわれる。
「…そ、そうですかね」
彼女は慌てて視線を伊達から外した。
それには照れが混じっていたからだと気付かない伊達は、説教じみたことを口にする。
「君ねえ、褒められた時は素直に喜ぶべきだよ」
は、はい、そうですね、とアキは音になる前の言葉しか出せなかった。
妙な沈黙が二人を包む。