砂糖漬け紳士の食べ方
「…へえ、今はそういうのまであるんだね…」
調べようともしなかったな、と彼はチラシを手に取る。ただし体はだらしないままで。
アキはサービスの簡単な概要を説明した。
このマンションに業者が直接作品を引き取りに来ること。
作品の梱包、搬送、会場への搬入作業の全てを業者に頼めること。
しかし搬送料金を説明するまでもなく、伊達は「じゃあそれで」とあくびを噛み殺しながら簡単に決断する。
確かにこのサービスはとても便利だ。
特に締め切りギリギリまで制作をしているような人にとっては…。
「分かりました。じゃあ伊達さんはお休みになって下さい。私の方で手続きをしておきます。
何か引き継ぎがあったら、メモに書いて残しますので」
彼女の気遣いにようやっと重苦しい体を起こし、伊達はいよいよ大あくびをしながら背伸びをした。
限界が近いようだ。
「…鍵はオートロックだからそのまま出てってもらって構わないから…」
「はい」
「じゃ、あとはよろしく」
ふにゃふにゃした口調でそう言い残し、伊達は寝室へと入って行った。
いつの間にか午後2時を過ぎている。
アキはその後、宅配業者に連絡をし、配送の手続きを済ませた。
公募展の作品搬入締め切りは、午後2時。
業者が営業を開始すると同時、いの一番に宅配を頼んだ。
このマンションから展覧会会場までは車で約40分の距離。これなら充分に間に合う。
伊達に言いつけたとおり、宅配業者からの見積もりや搬送の時間帯などをメモにまとめる。
何かあればと思い、アキの私有携帯電話の番号まで最後に添えた。
ここまで書けば、多少のトラブルがあっても大丈夫だろう。
アキは二つのグラスを片づけ、静かに静かにマンションを出た。
外は、清々するほど鮮やかな夕暮れだった。
冷たい空気も、呼吸をするだけで肺に心地いい。
展覧会が終われば、記事をまとめられる。やっと今までの集大成を世の中に出せるんだ。
ただ歩いているだけなのに、足に馴染んだ低いヒールのパンプスはタップダンスのように軽やかに響いた。