鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~




 ああ、やばいかも。


 直感でそう感じて、思わず目をギュッと強くつぶっていた。



 けれど・・・・・・いつまで経っても身体に重い衝撃が走ることはなかった。


 それは──。









「──やめろ」






 低い声がして、目を開いたあたしは目を疑った。



 それは・・・・・・あたしの前に立ち塞がるようにしている絖覇が魔物の腕を、片手で軽々と受け止めていたから。



 今までのチャラチャラした絖覇からは想像のできないくらいの低い声。


 別人かと疑ってしまった程。


 そして、見たことのないような真剣な表情で、平然として魔物の腕を掴んでいる。


 ──いや、片手で魔物の腕を軽々と──握り潰していた。



「ぐ、グォオオオッ!」



 状況をやっと理解した魔物は、痛みと怒りに絶叫した。


 そして、絖覇の手を握り潰された腕で振り払う。


 絖覇・・・・・・どうやってあの魔物の動きを止めさせたの?


 しかも、あんなに軽々と、片手で──。



 まだグラグラする頭で、必死に考える。


 すると、絖覇はクルリとこちらを向いた。



「りん」



「っ・・・・・・!」



 そしてそのまま、あたしをお姫様抱っこすると、魔物から離れたナトが気を失っている大木の下へと運んだ。

 


 真剣な表情のままで。


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