鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~






 あたしをナトの横に下ろすなり、絖覇は再び魔物と向き合う。


 魔物はまだ、絶叫していた。


 自分が攻撃したはずなのに、逆に反撃を受けたから、精神が崩壊したんだ。



 あたしはというと・・・・・・。


 呆気に取られてしまっていた。


 そう。


 絖覇の変貌ぶりに。


 なに、あれ。


 あの人は本当に絖覇なの?

 
 いつもふざけた、チャラチャラした笑顔しか顔に出さなかったはずなのに、さっきの表情・・・・・・。


 あの、真剣そのものの顔つき・・・・・・。


 そして、あたしが聞いたこともないような、低い声。


 それに絖覇が片手で魔物の攻撃を止めたことも、理解出来ていない。


 魔物の腕力は、軽く一撃するだけで、大地を穿(うが)つ。


 普通、人がまともに攻撃を受ければ、身体の原型など、留めることは出来ないのに・・・・・・。


 それなのに・・・・・・。



 考え事をしていたあたしの前では、凄まじい戦いが繰り広げられていた。



< 107 / 445 >

この作品をシェア

pagetop