鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~
そのままあたしは、その甘酸っぱい味に酔いしれていた。
「さて、帰れそう?」
「はい、ありがとうございます。
もうすっかり元気です」
ベッドを降りて、制服のシワを伸ばす。
あたし、制服のまま寝ちゃってたんだね。
「なにがあったかは、わからないし、聞く気もないけど──黒木さん。
あなたがここで寝てたから気づいてないと思うけど、椿くん、ずっとあなたのこと見に来てくれてたのよ?」
「え、絖覇が?」
「ええ。
休み時間のたび、様子を見に来てたわ」
なぜか嬉しそうに言う彼女はさておき、あたしの頭の中は絖覇のことでいっぱいだった。
ありがとう、絖覇・・・・・・!
その優しさに、涙が込み上げてきて、慌てて上を向いた。
そのとき。
「りん!
遅くなって悪かったな! 帰ろうぜ!」
絖覇が鞄を肩に掛けて、保健室に入ってきた。
「あ、先生。
もう帰ります。
りんは、俺が連れて帰るんで、大丈夫です」
絖覇はペコッと先生に頭を下げた。
「ああ、よろしく頼むわ。
ところで──二人は付き合ってるのかしら?」
ブッ!
あたし、思わず吹き出しちゃった。
何言ってるの、先生!
あたしたちが付き合ってる?
んなバカな!
そんなワケないじゃん!
あたしと絖覇は幼なじみってだけで・・・・・・。
「はい、そうですよ♪」
「まあ」
「ん゛な゙っ!
なに言ってるの、バカ絖覇!」
──ばこん。
「いってぇ・・・・・・」
あたしは拳で絖覇の黒髪の頭を殴った。
人が感謝してたのに、んっとに、もう!
「違う!
違いますから! 先生!
絖覇がウソ言ったんです!」
「はいはい、わかってるわよ」
先生はニヤニヤしながらも、納得してくれたらしい。
本当に、絖覇は・・・・・・!
「気を付けて帰りなさいね~!」
先生の明るい声を背に、あたしたちは保健室をあとにした。