鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~




 顔を上げれば・・・・・・そこには。



「絖覇!」



 不機嫌そうな絖覇の顔があった。


 どうしたのかな、なんかあったの?


 けど、質問するひまもなく、絖覇に強い力で引っ張られて曾於から離れてしまった。


 そのまま、なぜか森の奥へと連れていかれる。


 なに、なんなの?


 ワケが分からないまま、連れて来られて絖覇はようやく止まった。


「はあっ・・・・・・なに、絖覇。


 こんなとこまで走ってきて・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」



「えっ」



──トン。



 何も言わず、絖覇はあたしの背中と自分の手を木の幹に押し付けた。


 へ?


 
「こう、は・・・・・・?」


 絖覇の表情は、いつものおちゃらけた顔じゃなく、あの真剣な顔。


 何も言わないのが、逆に怖い。


 さっきから降りはじめた雨が、絖覇の背中を濡らしていく。


 絖覇と視線がまっすぐぶつかった。


 気付けば、絖覇との身長が同じくらいになってる。


 それでも、あたしの方がまだちょっと大きいと思うけど、それでもすぐに抜かされてしまうだろう。


 大きくなったんだなぁ・・・・・・なんて、親目線で思っちゃう。


 
「──りん」


「・・・・・・なに」


「・・・・・・・・・・・・」



 徐々に彼の顔が近づいて来る。


 マゼンタの瞳に囚われて動けなくなる。


 逸らせなくなる。


 ねぇ、絖覇。


 この、妙な胸の高鳴りは何?


 教えて欲しいの・・・・・・。


 って、


「ダメェッ!」


 間一髪で、絖覇の顎を上へと押し上げた。


 あ、あぶ、危なっ!


 ファーストキス、奪われるとこだった!


「何すんの!」


 いつも何かしら触ってきたりするけど、これは違うでしょ!

 

「ゴメン、なんでもねぇ」


 そういって彼は、あたしを優しく抱きしめた。


 本当なんなの?


 切なそうな顔をしたと思ったら、突然真剣な顔つきになって、最後は・・・・・・キス、しようとした。


 ねぇ、なんで? 絖覇。


 聞きたくても、聞けなくて。


 あたしの中では、ずっと奇妙な胸の高鳴りが続いていた。



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