鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~
それを聞いたナトは、
「それじゃ私はお邪魔だねっ、しっかり休んでねりんりん!」
そう言うなり、パチンと指を弾いて次の瞬間、彼女はいなくなっていた。
行動速いな・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
ナトがいなくなるなり、絖覇は黙ってしまった。
さっきまであんなに騒がしかったのに、なんでこんなに静かになっちゃうの?
「絖覇・・・・・・」
「りん」
彼の名前を呼べば、絖覇はベッドの縁に腰掛ける。
そして、あたしの右手に自分の右手を重ねた。
じんわりとした温もりが、薄いタオルを通してでも伝わって来る。
ただそんなことで、胸が締め付けられたように痛む。
二人きりになったせいか、堪えていた疲れがどっと身体を襲ってきて、身体に力が入らなくなってしまう。
「りん・・・・・・我慢とか、してないよな」
「うん」
「・・・・・・本当だよな」
「本当だって」
嘘じゃないよ。
絖覇の前では、素直な自分になっちゃうんだから。
なんでだろうね。
重ねられた右手が、ジンジンと熱く、熱く、熱を帯びていく。
身体の奥も、熱い。
そして、胸が異様に高まってしまう。
この気持ちは・・・・・・。
「コウ・・・・・・」
「なんだよ、ってか『コウ』って久しぶりに呼ばれたな。
ん~と? 小学生ぶりか?」
あー、そうだっけ?
小学生のとき、『コウ』って呼んでたんだった。
なんかその当時、ハマっていた漫画のヒロインがヒーローのことを名前を略してあだ名にしていて、あたしもやりたい!と言って絖覇のことをそう呼んでいた。
けど、それはあたしたちだけの呼び方とか言って、遊んでいたんだった・・・・・・。
高学年くらいからは、もう違ったと思うけど・・・・・・。
何だろう。
もっとその笑顔を向けてほしい。
その声であたしの名前を呼んでほしい。
そう、思ってしまう。
もしかして、この気持ちは・・・・・・。
いや、でも、絖覇になんて・・・・・・。
ギュッと目をつぶってその考えを吹き飛ばそうとするけど、脳の奥から何度も再生してくる。
信じたくないけど・・・・・・。
あたしは・・・・・・。
「なんだよ、りん。 元気なのか?
本当にキツイなら、俺に言えよ。
俺がなんとかしてやるから」
そう言って、絖覇はニカッと無邪気な笑顔であたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
一気に鼓動が高鳴る。
あたしは──絖覇が好きだ。