鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~




 昇降口で靴を履き替えていると、



「絖覇くーん! おはよぉーっ!」



 可愛い女の子の声がした。


 それと同時にパタパタと可愛らしい足音まで聞こえて来る。


 何となく、聞いてはいけないような気がしたのに、気付けばあたしは聞き耳を立てていた。


「ねぇねぇ! ちょっと来てくれない? 仁菜子が用事があるの」



 そう言うなり、その女の子は絖覇の腕に自分の腕を絡ませる。


 それを見た瞬間、思い切り心臓が握り潰された感覚に襲われた。


 絖覇は真顔でその女の子を見つめる。


 そうだった。


 絖覇はモテていた。


 しかも、どんなタイプの子にも。


 あの整った顔に、背こそ小さいものの、引き締まった身体。


 そしてチャラいけれど、大事なことはやるときはやる。


 男気があり、さりげない優しさが人気だった。


 それ以上、見ることが出来なくて、思わず顔を逸らすと教室に向かってトボトボと歩き出す。


 いくらあたしが絖覇のことを好きでも、ライバルは数えきれないほどいるのに・・・・・・。



「あー・・・・・・わりぃ。


 俺、行かなきゃ」


「えー、ちょっとだけだよぉ。


 それにあの子のところに行くの?」



「ああ、だから・・・・・・」



「なんでよ、あたしは絖覇くんのことが・・・・・・!」



「ゴメンな」



 そんな途切れ途切れの会話が聞こえたかと思うと・・・・・・。


「っ!」


──フワリ。


 柔らかな香りが全身を包み込んだ。




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