鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~




 彼の顔を見つめると、彼はようやくそのマゼンタの瞳を開けた。


 次の瞬間、身体に纏わり付いていた生ぬるい夏の風も、聞こえていた城下町の人々の声も、わからなくなった。


 世界に二人だけになったような感覚に陥った。


 長い長い時間が経った気がする。


 サラリと、彼の黒い髪が揺れた。


 そして・・・・・・。


 
「──っん・・・・・・!」



 柔らかく熱いものが、唇を覆った。


 それが、絖覇のものだと気づく余裕もなく、再び唇がぶつかり合う。


 もう、何も考えられなくなっていた。


 思考がぼんやりとしてきて、身体に力が入らなくなってしまう。


 どうして?


 なんであたしにキスなんてするの?

 
 ただ、疑問だけが浮かんで来る。


 至近距離でマゼンタの瞳に見つめられ、そんな疑問さえも消え去ってしまう。



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