鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~






「し、かし・・・・・・」


 
 俺の前に座っている年老いた男は、顔をしかめている。


 コイツは、裁判長か?

 
 意識がなかったからか、なかなか事態を把握出来ていなかったけれど、ようやくわかってきた。


 
「被告が女神の移し身であるのは事実で・・・・・・」



 なんとしてでも、俺を悪者にしたいのだろう。


 口の中で何かをぶつぶつと呟く裁判長を見て、内心少し呆れてしまった。


 
「──あの・・・・・・いいかしら?」



 澄んだ女性の声が響いて、その場の全員の視線がそちらに向いた。


 その声の主は、厳しい顔をしたアンゼリカさんだった。


 裁判長を、強く見つめている。


 アンゼリカさんは、ここの女王だ。


 一番発言力がある。


 彼女の一言で、判決が変わってしまうかもしれない。


 もしかすると、彼女は俺を処罰したいのかもしれない。


 ゴクリと、生唾を飲み込むと、彼女はこちらを向いた。


 もちろん、厳しい目で。




< 280 / 445 >

この作品をシェア

pagetop