鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~
ムギはとうとう、自分自身のために生きるために、自分から──世界の未来を放棄してしまった。
え────。
あまりの衝撃に、脳がうまく作動してくれなかった。
どういうこと?
ムギが・・・・・・世界を放棄した・・・・・・?
「──っ・・・・・・!」
あたしもお父さんも、身動き一つすら取れない。
ムギはしばらくの間、目をつぶっていた。
「だから、私は一生──不老不死の人生を使ったとしても、償いきれない大罪を犯してしまったの。
本来、私はここにはいてはいけない存在なの・・・・・・っ!」
そう言い終わると、つかえていた何かが取れたのか、ムギは泣き出してしまった。
あたしは自然に、ムギの身体を抱き寄せていた。
どれだけ、辛い思いをしてきたのだろう。
どれだけ、いろいろなことを我慢してきたのだろう。
“世界”という、彼女一人の身体には重過ぎる運命。
それを、自分を犠牲にしてまで守ってきたムギは、まだ15年しか生きていなくて、自分のことさえ堂々とできないあたしとは比べものにはならない。
それで、初めて恋をして。
それでも、ムギに選択の予知はなかったんだ。
恋を選んでも、世界が滅び。
世界を選んでも、自分を犠牲にしてしまう。
きっと、少し前のムギなら、迷いなく世界を選んだだろう。
でも、ムギは出会ってしまった。
自分の、運命の人に。
今までのすべてを犠牲にしても、人生を共に生きたい人が、できてしまったんだ。