鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~
なんだか胸がムカムカして、あたしは足音をわざと大きく鳴らしながら、廊下を進む。
そして・・・・・・。
──スパーン!
「絖覇!!」
「りん?」
教室のドアを強く開け放ち、絖覇の名前を呼ぶとクラス中の視線が集まったけど、気にも止めない。
そして、振り返った彼に驚いた。
「どうしたんだよ、そんなに怒って」
「な、な、な、なっ・・・・・・!」
絖覇は眉をひそめる。
言葉にならない声だけが、開けた口から漏れる。
だって、絖覇のその顔には──黒縁の眼鏡がかけられていなかったから。
マゼンタの瞳が、あらわになっている。
なんで眼鏡外してるのよ!?
なんで・・・・・・あたししか知らない素顔、みんなに見せちゃうの?
絖覇がモテてしまうことは、仕方のないことだと思っていた。
だって、カッコイイから。
告白されてることとかも、みんな頑張って決心したことで、あたしに止める資格なんてないんだから。
それは、許してたんだ。
でも・・・・・・あたしにしか見せたことのない顔を、みんなに見せるなんて・・・・・・。
妖艶なマゼンタの瞳は、あたししか知らなかったのに・・・・・・。
泣いてしまいそうで、俯いた。