鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~





 遠くで陽炎が揺れている。


 蝉が、生きた証をこの世に残そうと、必死に鳴いていた。


 あたしは今、生きている。


 生きて、いるんだ。


 戦いのときは、何もできない自分がイヤだった。


 仲間の力になれないことが、悔しかった。


 でも、あたしを必要としてくれている人がいることに気づいたとき、


 自分を初めて本当に誇りに思えたんだ。


 それは、もちろん、絖覇のおかげでもある。


 なかなか素直になれないあたしだけど、この気持ちをどうしたらいいかくらいはわかるよ。


 雲の間からこぼれる太陽の光を受けて、キラキラと輝く絖覇は、とても愛おしく思えた。



「絖覇」



「なんだ?」



 彼はこちらを向くと、微笑んだ。






「あのね、あたし──絖覇のことが大好きだよ・・・・・・!」





 あなたの隣にいれる幸せを噛み締めて。


 あたしたちは、生きていく。






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