この恋、永遠に。
 軽く謝罪をした本宮専務は、また私の頭をそっと撫でた。ぶつけたところに触れないように。

「い、いえ……大丈夫です」

 何が大丈夫なのか。もはや私にも分からない。
 絶対に呆れるか笑われるかのどちらかだと思った。
 突然当たり前のようにキスを迫られたときは、その強引さに怯えたけれど、こんな風に謝られて、優しく頭を撫でられたらどうしていいのか分からなくなる。

 本宮専務が本当はどういう人なのか、分からない。
 でも少しだけ興味がある。彼を知りたい。
 私の中にそんな欲求が芽生えたのは、このときかもしれなかった。

「そういえば、名前を聞いていなかったね」

 再び私との距離を自然に空けていた本宮専務が、腕を組んで背中をシートに深く預けたままちらりと私を見た。

「さっき、君の友達がミオと呼んでいたのは覚えているが」

「はい、美緒です。渡辺美緒」

「美緒、ね。いい名前だ。俺は…」

 懐から名刺を取り出そうとしたのだろう。右手をスーツの内ポケットに差し入れたところで動きが一瞬止まった。
 すると、彼は名刺ではなく、胸ポケットからスマホを取り出した。

「俺は本宮柊二」

 知っています、とは言えない。私は知らないふりをした。

「本宮…さん」

「そう。連絡先を教えてくれないか?また連絡したい」

 何故名刺を出さないのかなんて、疑問にも思わなかった。彼は知らないとはいえ、私は彼の素性を知っていたし、疑うことなんてなかったから。

 そして、また連絡すると言っている。つまり彼は、少なくともまた私に会いたいと思ってくれたということだ。
 私も素直にスマホを取り出す。
 彼は慣れた手つきでお互いの電話番号を登録した。

「これでよし。ありがとう」

 登録を終えた私のスマホを彼が差し出す。震える手でそれを受け取ろうとしたが、手が滑ってしまった。

「あっ…」

 暗い車内にスマホが転がる音が響く。

「ご、ごめんなさい!」

 慌てて拾おうと少し屈んで手を伸ばしたところで、その腕を掴まれた。軽く引っ張られる。
 私の体はいとも容易く、本宮さんの腕の中に閉じ込められた。
 ふわりと漂う爽やかな香りは彼の香水だろう。清潔感溢れる匂いに囚われてしまったのか、私は身じろぎ一つ出来ない。

「あ、あの…」

 先ほどとは違う妙な緊張感が私を支配した。
 あたたかい体温と、彼の香り。
 ドキドキと高鳴る私の鼓動。
 だが、それもほんの一瞬で、彼はすぐに私を解放した。そのまま落ちたスマホを探り当て、渡してくれる。
 私はお礼を言ってそれを受け取った。

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