この恋、永遠に。
 普段から白い顔をさらに青白くさせた沢口が大声で俺に命令する。
 秘書が専務に声高に命令するなど、あってはならない。しかも今は社員の目の前だ。俺と沢口の関係が幼馴染だとはいえ、ありえない光景だ。現に、目の前の彼女が驚いて目を白黒させている。
 こんな沢口は今までに見たことがない。どうしたというんだ?

「どうしたんだ、お前……。知っていると思うが、俺はこの後、美緒を迎えに……」

「いいから!頼むから今すぐ病院へ行ってくれ……!」

 俺を押し倒しそうな勢いで沢口が懇願する。何があったんだ。さすがに俺も不安になった。

「俺が車を出す。今すぐ病院へ行って……確認を……」

 沢口は俺の腕を掴むと目の前の女子社員などまるで無視して廊下へと出る。まっすぐエレベーターホールへと向かった。

「おい……、何があったんだ?」

 沢口は答えない。
 仕方がない…。俺は沢口の様子に不安になりながらスマホを取り出した。美緒に遅れると連絡をしよう。可哀想だが、沢口の用事の後で急いで向かうと伝えよう。

「わかった、ちょっと待ってくれ。美緒に連絡だけ入れておきたい」

 彼女の番号を表示させる。呼び出し音の前のプ、プ、プという機械音を聞いていると、沢口が俺を振り返った。

「渡辺さんは、出られない……」

 沢口が小さな声で呟く。
 は?何を言っているんだ?なぜお前がそんなことを言うんだ?
 俺はスマホを耳に当てたまま、沢口を訝る。彼はまっすぐ俺の目を見据えた。

「今さっき、電話があった。若い女性がそこの交差点で事故に遭い病院に運ばれてきたと。身元を証明するものがなかったが、事故に遭ったときに持っていた荷物にギフトカードが入っていたらしい。その宛名が本宮柊二、お前になっていたと」

 沢口が淡々と告げる。

「柊二の名前は有名だ。病院の関係者がお前のことじゃないかと思って連絡を寄越してきたらしい」

「……な、にを言って、いるんだ?」

 俺の手が僅かに震えている。
 耳に当てたスマホから、電源が入っていないという無機質なメッセージが流れていた。
 若い女性。ギフトカード。俺の名前。散りばめられた単語が結びつくのは……。

「今から病院に行って、彼女かどうかを確認して欲しい」
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