この恋、永遠に。
 沢口は名前を伏せた。でも、言いたいことが俺にも分かる。
 だが、そんなはずはない。彼女は今もマンションで俺の帰りを待っているはずなのだ。

「美緒は、マンションにいる」

「ああ」

「最近は一人で出掛けたりしていなかった」

「ああ」

「だから、彼女がそこの交差点にいるはずがない」

 まるで自分に言い聞かせるように俺は沢口に説明した。
 そう、彼女は俺がこれから自宅マンションまで迎えに行くのだ。
 エレベーターが到着した。沢口が俺を促す。
 先ほどの女子社員が小走りでやってきた。

「専務、すみません。とりあえずこれを。渡さないと怒られてしまいます」

 エレベーターに乗り込む寸前、彼女は俺に先ほどの封筒を手渡してきた。俺の心臓がドクンと大きな音を立てる。
 エレベーターの扉が閉まる向こう側で、彼女は慌てて付け足した。

「三十分前に、資材部の渡辺さんがいらして、専務に渡して欲しいと言われていたそうですよ」
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