この恋、永遠に。
 午後になり、私の一日で最も憂鬱な時間がやってきた。リハビリだ。これを頑張って早く前のように歩きたいとは思うけれど、やってみると想像以上につらかった。何をするにも痛くて仕方がないのだ。

 最初はベッドの上で、足の曲げ伸ばしから始まり、今はリハビリ室で歩行訓練に入った。けれどどんなに頑張っても左足は動かない。右足は痛みに耐えながら頑張っていると少しずつ成果が見えてきた。ほんの少しだけど動くようになってきているのが分かるからだ。だけど、左足はそうじゃない。右足とは何かが違うと感じる。

 私の足の状態は柊二さんが担当医から話を聞いて、私に教えてくれる。時間がかかるとは聞いていた。そして左足の方が右足よりも重症であることは最初に聞いていたから、きっとそのせいで左足の回復に時間がかかっているに違いない。まだまだ元通りになるには時間がかかりそうだ。

 けれど私の足がある程度回復しなければ、柊二さんもずっと家に帰れない。早くあの家に二人で帰るためにも、リハビリはつらいけど頑張ろう。

「はい、じゃあ今日はここまでにしようか」

 理学療法士の相田さんがリハビリの終了を告げた。私はほっと息を吐く。汗を拭って車椅子に座ると、相田さんが車椅子を押してくれた。

「リハビリはつらい?」

 車椅子を押しながら、相田さんが聞いてくる。彼はプロだ。リハビリのつらさを分かって心配してくれているのだろう。

「……そうですね。でも、これを乗り越えないと歩けませんし、早く治して家に帰りたいですから頑張ります」

 私が笑顔で振り返って力強く言うと、彼は「そう」と微笑んだ。その笑顔が何だか寂しそうで私は気になった。すぐには良くならないことを気に病んでいるのかもしれない。完治にはまだまだ時間がかかりそうだ。


 リハビリが終わった後、だいぶ暖かくなったから散歩をしようかと相田さんが誘ってくれた。私も散歩は柊二さんと一緒の時しかしたことがなかったので、相田さんの好意に甘えることにした。
 リハビリ室を出て、長い廊下を相田さんが車椅子を押して進んで行く。廊下の角の休憩室に来たところで愛しい姿を見つけた。柊二さんだ。様子を見にきてくれたのだろうか。ソファに座って沢口さんと何か話をしている。

「しゅ……」

 私は声を掛けようとして躊躇った。何だか様子がおかしい。

「渡辺さん?」

 私の様子を訝った相田さんに、私は人差し指を口元に当て静かにするよう合図すると、二人に気付かれないよう少し近づいた。二人がぼそぼそと話すのが聞こえてくる。

 沢口さんが驚いたのか少し大きな声を出した。柊二さんがハンカチを取り出し目元を押さえている。そして彼の口から衝撃的な言葉が漏れた。
 その言葉を聞いた途端、私の体は固まった。今、何て言ったの?ぶるぶると唇が震える。
 次の瞬間、顔を上げた沢口さんと目が合った。

「……渡辺さん!」

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