この恋、永遠に。
 柊二さんもすぐさま顔を上げる。ここにいる私を見て目を見開き、切なそうに顔を歪めた。
 彼の瞳は濡れていた。

「……美緒」

「…………」

 私は声が出ない。彼がゆっくりと近づいてくる。相田さんはおろおろとするばかりだ。
 柊二さんが私のところにやって来た。私の前に跪く。私の手を取り、まっすぐに私を見た。そして彼はぎゅっと強く私の手を握ると、私の膝の上に顔を伏せた。

「美緒!」

 彼の悲痛な叫び声が廊下に響く。彼の肩が震えている。彼が人前でこんな無防備に泣くのを初めて見た。
 沢口さんが相田さんに近づいて何か囁くと、相田さんは黙って頷きその場を後にする。沢口さんも暫くその場にいたようだが、気付けばいなくなっていた。気を利かせて二人にしてくれたのだろう。

「…柊二さん、さっき言っていたことは…………」

「……部屋で話そう、美緒」

 柊二さんは手の平でぐっと涙を拭うと、私の背後に回った。静かに車椅子を押す。私たちは黙ったまま、病室に戻った。

 病室に戻ると、柊二さんがいつものように私を抱きかかえてベッドへと移動させてくれた。私の足に布団を掛けると、そっと頭を撫でてくれる。柔らかく微笑んでくれる彼の笑顔が痛々しかった。
 彼は静かに話し出した。数日前、医師に告げられた事実。私の足がもう元通りにはならないこと、二度と歩けないだろうということ。

 私は彼の話を黙って聞いた。私の瞳から溢れる涙を止めることは出来なかった。泣いたら彼に心配を掛けてしまう。分かっているのに、止まらなかった。
 私はもう歩けない―――。




「美緒、こっちへおいで」

 柊二さんに呼ばれて私は車椅子を自分で動かして彼の元へ移動する。ここは柊二さんの自宅マンション。退院した私は、この部屋を見て驚いた。

「このスイッチを押すと上昇して、こっちを押すと元に戻る」

 そう説明しながら彼がスイッチを押すと、キッチンの高さが変わった。彼は私のためにマンションの一部をリフォームしたのだ。

 元々ほとんどバリアフリーになってはいたが、玄関にあった段差は一部がスロープになって車椅子でも楽に移動できるようになっている。
 そして私が恥ずかしがっていたバスルームは全面ガラス張りだったのが一部、磨きタイルに変更され、手すりが付いた。

 柊二さんの広いマンションは車椅子でも楽に移動が出来、柊二さんが私が生活しやすいように工夫してくれたのがよく分かる。
 クローゼットの、服を掛ける高さまで一部変更されていた。

「キッチンは、ほとんど美緒が使うから上げ下げする必要はないよ。一応可動式にはなっているけど、下げたままでいい」

 そう言って柊二さんは私の頭をぽんぽん、と優しく叩いた。料理が好きな私の為に考えてくれたに違いない。

「柊二さん、ありがとう」

 私が微笑んでお礼を言うと、彼も目元を和らげる。「どういたしまして」と言った彼に軽く唇を奪われた。

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