この恋、永遠に。
 私は柊二さんの腕の中でもう一度深呼吸をした。私の頭上で彼が小さく笑う声がする。目を細めて私を見下ろしていた。

「どうしたの?緊張してる?」

「それはしますよ。だってあんなに大きな会場で…あんなにたくさんの人がいて……柊二さんと違って私は慣れていないんですから。それに私は………」

 私はそっと俯き、足元に視線を落とす。私は柊二さんのおかげで、その腕で有名な外科医の手術をアメリカで受けることが出来た。手術は成功し、長いリハビリを経て私は歩けるようになった。再び、自分の足で。
 ただ、走ることは出来ない。歩き方もややぎこちない歩き方になってしまう。けれど、一生車椅子だと思っていた私には自分の足で歩けることが嬉しくて、幸せでたまらない。その気持ちは今でも変わらない。

 だが、今日は大勢の著名人の前に柊二さんの妻として出席するのだ。私の歩き方を不快に思う人がいるかもしれない。その所為で柊二さんにつらい思いをさせたり、迷惑をかけたりすることだって、あるかもしれないのだ。
 柊二さんが私をソファに座らせた。彼も私の隣に腰を下ろす。そして私の両手をそっと握ると、まっすぐ私の瞳を見つめた。

「大丈夫、心配しないで。俺は美緒の隣にずっといる」

「柊二さん…」

「俺が妻を溺愛しているのは、どうやら有名らしいからね。片時も離れなくても全然不自然じゃないよ」

 柊二さんがいたずらっぽい笑みを浮かべて私の額にキスをした。

「溺愛しているんですか?」

「そうだよ。知らなかった?」

「いいえ、知っていました」

 私も彼に合わせてふふ、と笑う。彼はそんな私を見て目を眇めた。そして不意に真剣な顔をする。

「でも………」

 彼がいったん言葉を区切った。その瞳が一瞬陰る。

「中には美緒が心配するように、心無いことを言う人間がいるかもしれない」

 私の手を握った彼の手に力がこもった。私は小さく頷く。

「そんなときはちゃんと俺を頼ってくれるね?」

 心配そうに瞳を揺らした彼が私を見つめる。ああ、私の痛みは彼の痛みなのだ。嬉しいときがそうであるように、悲しいときもそうなのだ。私たちは夫婦になった。

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