この恋、永遠に。
第二章

恋人なの?

 私は急いで帰宅すると、クローゼットを開けた。中の洋服をあれこれ出して急遽ファッションショーをする。
 定時で仕事を終え、帰宅しようとしていたところで制服のポケットの中で携帯が震えているのに気づいた。
 いつから鳴っていたのか分からなかったから、切れてしまうかもしれないと思い、慌てて通話ボタンを押した。
 淡い期待を抱いて。

 電話の向こうから聞こえてきたのは、待ち望んでいた低くて深みのある声。
 すぐに本宮さんだと分かった。本当に連絡をくれた。
 舞い上がってしまって、何を話したのかあまり覚えていない。けれど、これから迎えに行くと言われたことは覚えている。

 散々悩んだ挙句、私はアイボリーのニットワンピースを選んだ。胸元のリボンがお気に入りだ。
 姿見の前でクルリと回って見たところでインターホンが鳴った。



「どうしたの?美味しくない?」

 私の目の前には、食べたこともない食材がふんだんに使われた、芸術品とも呼べる綺麗な料理が並んでいる。
 その向こう側には慣れた手つきでフォークとナイフを操り、今まさに、私が対峙している問題を優雅に処理していく男、本宮柊二。

 私の両腕は、左手にフォーク、右手にナイフを握ったまま、宙に浮いていた。
 お皿の中央には、とても美味しそうな魚が早く食べてと言わんばかりに、その白い身をチラリと見せて誘惑している。
 私はそれを攻めあぐねていた。
 箸で綺麗に食べる自信は、ある。
 だが、今回は…お手上げだ。

「…食べ方が分からないのです」

 私は真っ赤になって素直に白状した。
 ここまでは、本宮さんを真似て何とかクリアしてきたが、これは駄目だ。どこから手を出していいのか分からない。

 彼に見合う女性を演じようと背伸びをしても、私は私。急に頑張って取り繕ってもメッキが剥がれるだけだ。
 本宮さんが小さく笑った。庶民な私を嘲笑ったのか、呆れたのか。
 だが、彼はその端正な顔を優しげに崩して私を見ていた。

「そんなことを気にしていたのか」

「だって…」

「好きなように食べればいい」

「そういう訳にはいかないですよ」

 こういうものにはマナーがあって、私がみっともないことをしたら本宮さんが恥をかくことくらい誰にでも分かる。
 こんなに素敵な彼に、私の所為で恥をかかせるようなことはしたくない。

「見てごらん」

 本宮さんはいったんフォークを置くと、私たちが入ってきた方に顔を向けた。
 私もつられてそちらを見る。

「ここは他の空間から遮断されているんだ」

 今二人がいるここは、窓から遠くにスカイツリーが望め、輝くネオンにそれはまるで宝石を散りばめたドレスを纏って立っているよう。
 そんな素敵な景色が映し出されるこの空間は、漆喰の壁で回りを仕切られ、アーチを描いたその入り口に扉こそないものの、生き生き色付いたグリーンが私たちを他の客から遮断していた。
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