この恋、永遠に。
 廊下の奥、案内されたのはバスルームだった。手前にパウダールームがあり、奥がシャワールームとバスルームになっている。三つの部屋は全て透明なガラスで仕切られていて、湯気で曇っていない今はこちらから丸見えだ。

 例え湯気で少し曇ってもこれでは見えてしまうのではないだろうか。
 男の人の家で、無防備に裸になる事が躊躇われる。今までそんな状況になったことなどない。
 私が躊躇って中々服を脱げないでいると、コンコン、とドアをノックする音がした。

「はい」

 返事をすると、ドアが開き、本宮さんが入って来た。手には私の着替えであろう、女性物の服を持っている。

「シャワーを浴びたらこれに着替えて。多分サイズは大丈夫だと思うけど」

 受け取った服はサーモンピンクのワンピースだった。
 見た感じ新品に見えるが、本宮さんが女性の服を持っているとは考えにくい。となると、これは誰か他の女性のものだろうか。
 私の胸が小さな針で刺したように、ツキンと痛む。

「あの…これ…」

「さっき用意させた。誰かの借り物じゃないよ。それは君の服だ」

 私の心を読んだかのように、本宮さんが微笑む。そんな優しい顔をされると勘違いしてしまいそうだ。

「そんな…買ってもらう理由がないです」

「理由ならあるよ。俺が美緒にプレゼントしたいんだ」

「………」

「大したものじゃない。ただ、シャワーを浴びたらそれに着替えて、俺とランチを一緒にして欲しい。皺になった服では無理だろう?それだけだ」

「あの……」

「着替えてくれるね?」

 顔を寄せ、間近で囁くように懇願されたらもう頷くしかない。私はコクコクと首を縦に振った。

「ありがとう。じゃあ待ってるよ」

 ドアが閉まり、一人になった私は脱力して床に座り込んでしまった。「ありがとう」を言うのは私の方だ。
 酔って迷惑を掛けた上に、こんな素敵な服まで用意してもらって。
 本宮さんはどうしてこんなによくしてくれるのだろう。もしかして…という淡い期待が頭をもたげる。

 私は慌てて首を振った。変に期待をしてしまうと、それを失ったときが怖い。
 彼にとっては、私のようなタイプの女の子が珍しくて一時的に構っているだけなのかもしれない。その方が現実的に思える。
 あまり待たせるのも悪いと思い、私は急いでシャワーを浴びた。やっぱりガラス張りは落ち着かない、とソワソワしながら。


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