この恋、永遠に。
「え……しゅ、柊二さん……!」

 なぜここに柊二さんが?普段は自分の車か秘書の沢口さんが運転する車か、あるいはタクシーで移動する柊二さんだ。こんな歩道の真ん中でばったり出くわすこと自体、珍しい。
 本来ならこんな偶然で思いがけなく柊二さんに会えたとなれば嬉しいに決まっている。だがしかし、今私の目の前にいる柊二さんは、お世辞にも機嫌が良さそうには見えない。むしろその逆だ。
 その端正な顔にある漆黒の瞳は鋭い光を放ち、私と、私の後ろにいる孝くんを交互に睨みつけている。

 こんな往来で、長身の二人の男性が睨み合っている―――孝くんは平然と笑みを浮かべているが―――となれば人目を引くに決まっている。ただでさえ、二人の容姿には目を奪われるのだ。
 注目されることに慣れていない私は焦るばかり。二人に挟まれたまま、身を竦めた。
 そうしている間も、道を行きかう人々が皆何事かと振り向き、男性は遠巻きに、女性たちはうっとりとした視線を向けながら通り過ぎていく。

 どうして柊二さんはこんなに不機嫌なんだろう。もしかして私と孝くんが会っていたと思っているのだろうか。それだったら完全な誤解だ。訂正しなければ。今すぐ。
 私は意を決して息を吸い込んだ。誤解はされたくない。
 だが、そんな決心が口から滑り出す前に、孝くんの陽気な声が聞こえ、私は自分の耳を疑った。

「やあ、柊二」

「え?」

 いつの間にか孝くんが私の隣に立っている。私は彼を見上げた。
 孝くんが柊二さんのことを親しげに名前で呼んだのだ。
 二人は知り合いなの?これは偶然?それとも……?

「……どういうことか聞かせてもらおうか」

 柊二さんは険しい表情で孝くんを睨んだまま腕を組む。威圧感たっぷりの柊二さんに、私は疚しいことなどないのにビクビク肩を震わせてしまう。対称的に孝くんは全く動じていない。

「そんな顔するなよ。美緒ちゃんが怖がっているだろう?」

「……美緒ちゃん?」

 柊二さんの頬がピクリと動いた。

「はは。本当はもっと後で言うつもりだったんだけど、仕方ないな」

 孝くんはまるで手品の種明かしをするときのように、楽しそうだ。
 私は憮然とした態度を崩さない柊二さんを前にしてそんな気分になれない。
 突然の孝くんとの再開を喜ぶ余裕もなく、さらに二人は知り合いらしい。孝くんは何か知っているようだけど、柊二さんはそうではなさそうだ。何が、あるの…?

「美緒ちゃんは小さい頃、僕の隣の家に住んでいた子なんだ」

 孝くんが話し始めると、柊二さんがちらりと私を見下ろした。そして再び孝くんを見る。

「僕が大学に入った頃、美緒ちゃんの家が引っ越してしまったんだけど、さっき偶然、ここで再会したのさ。十年振り以上だよ」
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