この恋、永遠に。
私の顔は引き攣っていなかっただろうか。まさか高科さんにこれほど好意を持たれているとは気づきもしなかった。ただ、気さくで優しい先輩だと思っていただけ。
私は柊二さんが好きなのに、高科さんとこれ以上親しくしない方がいい気がする。でも、告白されたわけでもないのに、断るのも自意識過剰ではないだろうか。彼からの強引なアプローチをうまくかわすにはどうしたらいいのだろう。
きっと萌ちゃんなら、こんなに悩むことなく上手くあしらえるんだろうな。今までずっと恋愛に奥手すぎたことを私はほんの少し後悔した。
食事を終えて高科さんが呼んでくれたタクシーに二人で乗り込むと、私は気づかれないように小さな溜息を吐いた。
出された料理はどれもとても美味しかったが、高科さんと二人の食事はとても気疲れした。初めて柊二さんと食事をしたときも緊張していたが、それとは違う。まるで苦手な食べ物を無理やり食べさせられた、今日はそんな感じだった。
これ以上高科さんと仲良くなるのを避けるため、私は必死に窓の外に視線を走らせ、会話をする隙を与えないようにしていた。それでも高科さんは話術に関してはいわばプロだ。日本有数の総合商社の、エリート営業マンだ。私がいくら隙を与えないように頑張ったところで、彼の前では無意味なのかもしれない。きっと彼の思惑通り。振られる話題を無視することなどできなかった。
そうこうして私たちの乗るタクシーが会社近くの通りまで来た。高科さんが私を家まで送ってくれると言っていたから、会社を素通りしていくわけだけれど、何となく気になって私は近づいてくる会社を見つめる。もしかしたら、柊二さんの姿を見られるかもしれないという淡い期待を込めて。
だが、そんな偶然が起こるはずもなく、タクシーは会社の前を通り過ぎた。自分でも気づかないほどがっかりしていたのか、脱力してシートに体を預けると小さな溜息を漏らしてしまった。
「どうしたの?会社に何か用事でもあった?」
そんな私の様子を逐一観察しているのか、隣に座った高科さんがすぐに私の顔を覗き込んで聞いてくる。
「いえ、何でもありません」
苦い笑みで何とか誤魔化すと私は再び車窓に視線を移した。まもなくタクシーが赤信号で停止する。そのまま何となく外の景色を眺めていると、見慣れた背中が視界に入った。
「え……」
見間違うはずがない。高い背に黒い髪、広い肩幅。黒いコートを着たその背中は、間違いなく柊二さんだ。
そしてそんな彼の隣には、明るい色の長い髪をゆるやかにウェーブさせた、背の高い女性。彼女は柊二さんの腕に自分の腕を絡ませ、もたれかかるようにして歩いていた。
「あれ?」
私が柊二さんを凝視しているのに気づいたらしい。高科さんが隣から身を乗り出して私の視線の先を追った。
「あそこにいるのって、もしかして専務じゃない?」
私と柊二さんの関係を知らない高科さんがやや興奮気味に大きな声を出す。
「へぇ~、隣の女は恋人かな?専務に恋人がいるなんて話、聞いたことないけど、やっぱりあれだけの男がいないはずないよね」
一人で納得して頷いている高科さんに、私はショックで声を出すことが出来ない。ただ呆然と二人を眺めていた。
「うーん、ここからだと顔が見えないな。どんな女なんだろ。もしかして社員だったりして」
私は柊二さんが好きなのに、高科さんとこれ以上親しくしない方がいい気がする。でも、告白されたわけでもないのに、断るのも自意識過剰ではないだろうか。彼からの強引なアプローチをうまくかわすにはどうしたらいいのだろう。
きっと萌ちゃんなら、こんなに悩むことなく上手くあしらえるんだろうな。今までずっと恋愛に奥手すぎたことを私はほんの少し後悔した。
食事を終えて高科さんが呼んでくれたタクシーに二人で乗り込むと、私は気づかれないように小さな溜息を吐いた。
出された料理はどれもとても美味しかったが、高科さんと二人の食事はとても気疲れした。初めて柊二さんと食事をしたときも緊張していたが、それとは違う。まるで苦手な食べ物を無理やり食べさせられた、今日はそんな感じだった。
これ以上高科さんと仲良くなるのを避けるため、私は必死に窓の外に視線を走らせ、会話をする隙を与えないようにしていた。それでも高科さんは話術に関してはいわばプロだ。日本有数の総合商社の、エリート営業マンだ。私がいくら隙を与えないように頑張ったところで、彼の前では無意味なのかもしれない。きっと彼の思惑通り。振られる話題を無視することなどできなかった。
そうこうして私たちの乗るタクシーが会社近くの通りまで来た。高科さんが私を家まで送ってくれると言っていたから、会社を素通りしていくわけだけれど、何となく気になって私は近づいてくる会社を見つめる。もしかしたら、柊二さんの姿を見られるかもしれないという淡い期待を込めて。
だが、そんな偶然が起こるはずもなく、タクシーは会社の前を通り過ぎた。自分でも気づかないほどがっかりしていたのか、脱力してシートに体を預けると小さな溜息を漏らしてしまった。
「どうしたの?会社に何か用事でもあった?」
そんな私の様子を逐一観察しているのか、隣に座った高科さんがすぐに私の顔を覗き込んで聞いてくる。
「いえ、何でもありません」
苦い笑みで何とか誤魔化すと私は再び車窓に視線を移した。まもなくタクシーが赤信号で停止する。そのまま何となく外の景色を眺めていると、見慣れた背中が視界に入った。
「え……」
見間違うはずがない。高い背に黒い髪、広い肩幅。黒いコートを着たその背中は、間違いなく柊二さんだ。
そしてそんな彼の隣には、明るい色の長い髪をゆるやかにウェーブさせた、背の高い女性。彼女は柊二さんの腕に自分の腕を絡ませ、もたれかかるようにして歩いていた。
「あれ?」
私が柊二さんを凝視しているのに気づいたらしい。高科さんが隣から身を乗り出して私の視線の先を追った。
「あそこにいるのって、もしかして専務じゃない?」
私と柊二さんの関係を知らない高科さんがやや興奮気味に大きな声を出す。
「へぇ~、隣の女は恋人かな?専務に恋人がいるなんて話、聞いたことないけど、やっぱりあれだけの男がいないはずないよね」
一人で納得して頷いている高科さんに、私はショックで声を出すことが出来ない。ただ呆然と二人を眺めていた。
「うーん、ここからだと顔が見えないな。どんな女なんだろ。もしかして社員だったりして」