この恋、永遠に。

　私の脳裏に、高科さんと話す私を鋭い目つきで睨む斉藤さんの姿が浮かんだ。彼女はきっと、高科さんのことが好きなのだ。わざわざパッとしない資材部の私を誘うより、彼女を誘えばいい。

「斉藤さん……ね。僕が一緒に食事をしたいのは彼女じゃない。僕は渡辺さんがいいんだ」

「どうして……」

「どうして？そうだね……。営業にいる女性は…もちろん斉藤さんもね。確かに仕事は出来るし綺麗だけど、僕のタイプじゃないんだ。彼女たちは僕がいなくても何でもできるだろう？僕は必要ないと思うんだよね。僕は僕みたいに何でも出来てしまう人には興味がないんだ。その点、渡辺さんは完璧だよ。僕の庇護欲をとてもそそる」

「…………」

　それは、つまりこういうことだろうか。高科さんは自分より格上、あるいは自分と同等と判断した人間を傍に置くよりも、自分より格下だと判断した人間を傍に置きたいと思っている。そしてその相手として、新卒で資材部に配属された私は適任だったと、そういうことだろうか。庇護欲をそそると言っても、彼の場合は心のどこかで私を見下しているだけではないだろうか。私の存在が高科さんに優越感を与えていた？

「私は……」

　好きな人がいます、と伝えたかった。高科さんのことは尊敬していたけれど、実はそんなことを考えて私に近づいていたなんて。そもそも私は柊二さんが好きなのだ。
　だが、私の思いを高科さんに伝えることはできなかった。廊下を隔てた総務とは反対側にある、医務室のドアが開いたからだ。そしてそこにいたのは……。

「……美緒？」

　全身の血が波が返すようにさあっと引いて行く音を聞いた気がした。唇が、いや、全身ががくがくと震え、立っているのがやっとだ。

「え……専務？」

　高科さんも驚いて固まっている。
　医務室から出てきたのは、柊二さんだった。意思の強い漆黒の瞳が驚きに揺れて見開かれ、私を、そして私の腕を掴んで引き寄せる高科さんを交互に見る。

「美緒……って？渡辺さん、専務と知り合いなの？」

「あ………」

　私は声を出すことが出来ない。高科さんに掴まれた腕もガタガタと震えているのが分かる。知られてしまった。こんな、最悪の形で。せめて自分の口から真実を打ち明けたかったのに。

　柊二さんの視線が私が手にしていた備品購入申請書に移った。そしてもう一度、その視線を私に戻す。着替えているから制服こそ着ていないが、この書類を持って総務部のドアの前にいることが、私がここの社員であることを雄弁に語っていた。

「美緒、君は……」

　柊二さんが何か言おうとした。けれどこのとき私にはその先を聞く勇気がなかった。
　柊二さんに知られてしまった！

　私は高科さんに掴まれた手を勢いよく振り払うと、書類を持ったままくるりと踵を返した。背後で私の名前を呼ぶ柊二さんの声が聞こえたが、振り返ることが出来なかった。
　そのまま走ってエントランスを抜ける。駅に向かい、飛び乗った電車の窓に映った自分の顔は、涙で化粧が崩れたひどい有様だった。