この恋、永遠に。
 笑みを浮かべてそう語る柊二さんは楽しそうだ。どこまで本気でどこから冗談なのか分からない。本当に公表する気なのだろうか。私は少し不安になった。

「あの、冗談ですよね?」

「いや、本気だが……美緒は冗談だと思ったの?」

 どうやら柊二さんは本気だったようだ。半分冗談だろうと思っていたのは私だけだった。でも突然交際宣言をしたら一体どうなるのだろう。
 彼は、今は専務で次期社長だ。対する私はリストラ候補の資材部。立場が真逆のそんな二人が交際しているなんて知られたら、柊二さんに迷惑が掛かるのではないだろうか。きっと柊二さんのご両親だって簡単には許してくれないだろう。
 私はブルブルと首を左右に振った。

「交際宣言は、まだ早いと思います……。高科さんには私からお話します。彼は、その…、さっきお話した女性が柊二さんの恋人だと思っていますから……」

 柊二さんが片眉を上げた。
 彼の態度からは、私に対する後ろめたさや戸惑いが感じられない。いつものように堂々としていて、とても私に嘘を吐いている感じではない。
 やはりあの女性は柊二さんとは何も関係ないのだろうか。私と高科さんがそうであるように。

「美緒がさっきから話している女性のことだけど」

 柊二さんが一旦言葉を区切って私を真正面から見据えた。はぁ、と大きく息を吐く。そして私に先ほど見た、傷のある左手を差し出した。

「誰のことか分かったよ……。実はこれも、そいつに冗談半分で引っ搔かれた傷なんだ。いずれ美緒にも紹介するつもりだが、少し事情があって、ね。今はっきり言えるのは、美緒が言っている女性は俺の恋人じゃない。俺の身内だよ。俺の恋人は、一人だけ。君だけだ、美緒」

「柊二さん……」

「だからもう、俺以外の男と二人で食事は駄目だよ」

 柊二さんの手が私の髪を梳くようにして撫でる。彼に髪を触られるのは好きだ。私はうっとりと目を瞑った。彼の束縛がこんなにも心地いいなんて。

「……はい。柊二さんも、ですよね?」

「もちろん」

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