この恋、永遠に。
「しゅ……専務!」
美緒が俺の名前を呼びそうになったのを、慌てて言い直している。俺としては名前で呼んでもらいたいが、ここは職場だ。そういう訳にもいかないだろう。
「渡辺さん、ちょっといい?」
俺も彼女を苗字で呼んだ。思えば苗字で呼ぶのは初めてかもしれない。秘密の社内恋愛をしている背徳感が妙に興奮する。
部屋の奥を見ると、美緒の他にもう一人、男がいた。資材部に配属された男はそんなに多くはないはずだが、何しろ社員数千人だ。咄嗟に名前が出てこない。男は何故俺がここにいるんだ?とでも言いたげな視線を俺に向け、ビクビクしているようだ。
「関根さん、ちょっと出てもいいですか?」
美緒が奥にいた男に声を掛ける。男はかすれた声で返事をした。あの男は関根と言うらしい。見たところ美緒よりかなり年上だ。恐らく既婚者だろう。ほっとしている自分に気づき苦笑する。我ながら重症だ。
俺は美緒をそのまま一階のリフレッシュコーナーへ連れ出した。ここ以外に静かに話せそうな場所がなかったからそうしたが、ここにも数人の社員がいる。俺と美緒が一緒にいるのを遠巻きに眺め、何やらひそひそと話していた。俺と彼女の関係をあれこれ詮索しているのだろう。俺がここに来るよりも、美緒を俺のオフィスに呼び出した方がよかったのかもしれない。
そんなことを考えながら俺はコーヒーと、美緒の為にミルクティーを買った。彼女はコーヒーが飲めない。俺はいつもブラックで自宅にもコーヒー以外、砂糖やミルクも置いていなかったが、彼女が飲めないと知ってからは、紅茶も置くようにしている。彼女がいつ来てもいいように…。
「あ、あの、専務……、何か用があったのでは?」
他の社員からの視線を痛いほど感じているのだろう。少しおどおどした様子で美緒が話しかけてきた。ここにいる全員に、彼女は俺の恋人だと宣言してしまいたくなる。
「ああ、美緒、体は本当に大丈夫?」
俺の問いかけに、彼女は瞬時に頬を朱に染めて俯いた。耳まで赤くなっている。
「……はい。大丈夫です。その…せっかく有休を申請していただいたのに、ごめんなさい」
「いや、大丈夫ならいいんだ。ただ、無理をして欲しくなくてね。俺こそおせっかいだったね」
「いえ、そんなことないです!すごく嬉しかったです!」
美緒が急に顔を上げて真っ赤になったまま勢いよく言った。その後自分の声の大きさに気づいたのか、慌てて回りを見回した彼女はまた俯いてしまう。「すみません」と小さな声で謝った。
謝る必要なんて全然ないのに。むしろ俺の方が彼女を抱きしめたい衝動に駆られて困っている。彼女が俺の恋人だと宣言したらどうなるのだろうか。彼女が仕事をやりにくくなるだろうか。それならば暫くは黙っておいた方がいい。けれど、それも時間の問題のような気もする。俺の方が、我慢できないからだ。
美緒が俺の名前を呼びそうになったのを、慌てて言い直している。俺としては名前で呼んでもらいたいが、ここは職場だ。そういう訳にもいかないだろう。
「渡辺さん、ちょっといい?」
俺も彼女を苗字で呼んだ。思えば苗字で呼ぶのは初めてかもしれない。秘密の社内恋愛をしている背徳感が妙に興奮する。
部屋の奥を見ると、美緒の他にもう一人、男がいた。資材部に配属された男はそんなに多くはないはずだが、何しろ社員数千人だ。咄嗟に名前が出てこない。男は何故俺がここにいるんだ?とでも言いたげな視線を俺に向け、ビクビクしているようだ。
「関根さん、ちょっと出てもいいですか?」
美緒が奥にいた男に声を掛ける。男はかすれた声で返事をした。あの男は関根と言うらしい。見たところ美緒よりかなり年上だ。恐らく既婚者だろう。ほっとしている自分に気づき苦笑する。我ながら重症だ。
俺は美緒をそのまま一階のリフレッシュコーナーへ連れ出した。ここ以外に静かに話せそうな場所がなかったからそうしたが、ここにも数人の社員がいる。俺と美緒が一緒にいるのを遠巻きに眺め、何やらひそひそと話していた。俺と彼女の関係をあれこれ詮索しているのだろう。俺がここに来るよりも、美緒を俺のオフィスに呼び出した方がよかったのかもしれない。
そんなことを考えながら俺はコーヒーと、美緒の為にミルクティーを買った。彼女はコーヒーが飲めない。俺はいつもブラックで自宅にもコーヒー以外、砂糖やミルクも置いていなかったが、彼女が飲めないと知ってからは、紅茶も置くようにしている。彼女がいつ来てもいいように…。
「あ、あの、専務……、何か用があったのでは?」
他の社員からの視線を痛いほど感じているのだろう。少しおどおどした様子で美緒が話しかけてきた。ここにいる全員に、彼女は俺の恋人だと宣言してしまいたくなる。
「ああ、美緒、体は本当に大丈夫?」
俺の問いかけに、彼女は瞬時に頬を朱に染めて俯いた。耳まで赤くなっている。
「……はい。大丈夫です。その…せっかく有休を申請していただいたのに、ごめんなさい」
「いや、大丈夫ならいいんだ。ただ、無理をして欲しくなくてね。俺こそおせっかいだったね」
「いえ、そんなことないです!すごく嬉しかったです!」
美緒が急に顔を上げて真っ赤になったまま勢いよく言った。その後自分の声の大きさに気づいたのか、慌てて回りを見回した彼女はまた俯いてしまう。「すみません」と小さな声で謝った。
謝る必要なんて全然ないのに。むしろ俺の方が彼女を抱きしめたい衝動に駆られて困っている。彼女が俺の恋人だと宣言したらどうなるのだろうか。彼女が仕事をやりにくくなるだろうか。それならば暫くは黙っておいた方がいい。けれど、それも時間の問題のような気もする。俺の方が、我慢できないからだ。