この恋、永遠に。
「俺は今日はこの後ちょっと忙しくてね。明日も会議があるから時間が取れないんだが…」

 俺の言葉に、美緒が落胆するのが分かった。今日は金曜日。明日は本当ならば休みなのだ。俺と過ごす休日を楽しみにしていてくれたのだろうか。

「会議は夕方には終わるんだ。だから、美緒さえよければ、その後会いたいと思ったんだが」

 美緒が俯けていた顔をぱっと上げる。その頬はピンクに染まり、つい先ほど俺が忙しいと言ったときとは大違いだ。俺の言葉で一喜一憂する彼女が可愛くてたまらない。彼女は俺の瞳をまっすぐ見つめてきた。

「本当に?」

「どうしたの?」

「いえ、会いたいって……」

「ああ、美緒に会いたい」

「私も……会いたい、です」

 はにかんで笑う彼女が可愛い。俺も思わず顔を綻ばせた。彼女を引き寄せキスしようと伸ばした右手を慌てて止める。空中で彷徨ってしまった手の平をぎゅっと握り締めた。
 危ない。ここは会社だ。人目もある。何やってるんだ、俺は。

「じゃあ、そろそろ行くよ。美緒も無理しないで。体がつらかったら早退するように」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

 ペコリをお辞儀をする美緒は事務的な笑顔を向けた。彼女の方が社内での振る舞いをよく分かっているらしい。俺はそんな彼女に微笑むと、そのまま沢口が待つエントランスへと向かった。


「専務、ベタ惚れですね」

 客先へ向かう途中、バックミラー越しに沢口が視線を寄越した。

「…………」

 俺も鏡に向かってジロリと睨む。効果がないのは分かっているが。

「勘違いしないでください。私は喜んでいるんですよ。やっと専務がその気になってくれたと思って。渡辺さんは孝くんの知り合いでもあるようですし、社長も喜ばれるんじゃないですか」

 俺は腕を組むと車窓に目をやった。確かに俺の両親は放任主義だ。俺の結婚相手についてとやかく言ってきたことがない。俺が今までふらふらしていたときでさえ、お見合い話の一つも持ってこなかったくらいだ。持ってくるのは決まって孝のお祖母様である俊子さん。その俊子さんも、俺に恋人が出来たと孝から聞いたらしく、ここ最近はぱったりと見合い話を持ってくることがなくなった。ある意味この作戦は成功したわけだ。

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