この恋、永遠に。

ピンクダイヤモンド

 狭い部屋で私は慌てて濡れた髪にドライヤーを当てていた。今日はこれから柊二さんと会う約束をしている。
 昨日、彼が突然資材部にやってきたときは驚いた。他の社員の視線がある中、リフレッシュコーナーへ連れて行かれたときは、どう接していいのか分からなかったが、彼は相変わらず優しくて、私の体を気遣ってくれた。彼の気遣いがとても嬉しくて、同時にその時の事を思い出してしまい、恥ずかしくもあった。

 今日は柊二さんが夕方まで会議だということで、私は彼の自宅マンションで待つように言われている。一階のコンシェルジュに言えば鍵を開けてくれるそうだ。
 私はクローゼットから襟元が黒いファーになっているグレーのニットセーターに、膝丈の黒いフレアスカートを合わると、黒いコートを羽織った。鏡の前でくるりと回って全身を写し、おかしなところがないかをチェックする。大丈夫なことを確認してから、黒とグレーのファー素材でできたバッグを持つと、アパートを出た。

 柊二さんのマンションには数回お邪魔したことがある。いつもは彼の車で来ていたから、自分で電車に乗ってくるのは初めてだ。駅を降りるとすぐに目立つ高層ビルが視界に入り、そこが彼のマンションだから迷うことはなかったけれど。

 私はまっすぐ彼のマンションには向かわずに、少し歩いたところにあるスーパーへと向かった。
 柊二さんが帰ってくるまでまだ時間がある。それまでに何か食事を用意しておこうと思っていた。キッチンは好きなように使って構わないと言われている。
 スーパーへはすぐに着いた。だが、中へ入って少し驚いてしまう。私のアパート周辺にあるスーパーとは違い、食材の種類が豊富だった。そして、値段も高い。今まで何も気にせずいたが、この辺りは高級住宅街なのだろう。柊二さんのマンションも、初めて見たときはその豪華さに驚いたのだ。

 私はいつものスーパーでは見かけない様々な食材を前に、あれこれ悩んでしまった。見ているだけでも楽しい。彼にどんな料理を作ってあげようか、とか、そんなことを考える時間すら楽しくて仕方がないのだ。
 一通りスーパーの中を見回してから、私は買い物カゴの中に食材を入れていった。料理をするのは好きだ。もっとも、セレブな彼が普段口にしているような一流の料理には到底及ばないだろうけれど。


 キッチンに立ってから一時間ほど経った頃、柊二さんからメールが入った。ようやく仕事が終わってこれから帰宅するとのことだった。彼が帰ってくる。私は浮き足立つのを抑えることが出来ず、鼻歌交じりに準備を進めた。
 それから三十分程経った頃、インターホンが鳴った。柊二さんだ。

 リビングの壁に設置されていたディスプレイを覗き込み、彼の姿を確認すると、「はい!」と興奮気味に応答してしまった。
 私ったら本当に恥ずかしい。でも、柊二さんだって悪いのだ。だって彼のスーツ姿はいつも本当に惚れ惚れするくらい素敵だから。
 そんな私に、柊二さんはディスプレイ越しに優しい笑顔を見せてくれた。

「美緒、ただいま。開けてくれないか?」

「あ、はい!」

 私は慌てて玄関まで小走りで駆けて行くと、急いで玄関ドアを開けた。

「おかえりなさい」

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