この恋、永遠に。
柊二さんが海外出張に行ってしまってから三日目。忙しい彼からの電話はないが、毎日メールが一通送られてくる。少し寂しいけれど彼は忙しいのだ。これぐらいのことを我慢できなければ、この先彼と一緒にいることなどできないだろう。
私の様子は柊二さんの秘書の沢口さんが、こまめに見に来てくれる。気にかけてくれるのが分かって嬉しいが、正直過保護すぎるとも思う。柊二さんは私をたまに子供扱いするけれど、私だってもう成人だ。大学進学で上京してからずっと一人暮らしをしてきたし、今まで何も問題なく過ごしているのだから。
私は仕事を終え、自宅アパートの最寄り駅で降りると近所のスーパーに寄った。今日は寒いから簡単に鍋焼きうどんにしよう。冷蔵庫に野菜が少し残っているから、足りないものだけ買い足せばいい。私はスーパーでうどんと、しいたけと、春菊、それからミネラルウォーターを買った。
古いアパートの郵便受けを覗いたときに、異変を感じた。郵便物が一通もない。たまにはそんなこともあるかもしれないが、いつもはダイレクトメールやら広告が、何かしら入っているのに。
私は首をひねりながら、ギシギシと軋む階段を上り、自分の部屋の前まで来た。特におかしなところはない。だが、鍵穴に鍵を差し込んだところでやはりおかしいことに気づいた。鍵が、開いているのだ。……朝家を出るときに、鍵を閉め忘れてしまったのだろうか。
心臓がドクドクと高鳴り、手に汗が滲んできた。大丈夫、きっと、何でもない。今までずっと、平和に過ごしてきたではないか。
滲んだ手汗をスカートに撫でつけると、私はぐっと力を込めてドアノブを回した。ギィと重たい音を立ててドアが開く。部屋の中は真っ暗で何も見えないが、異変はすぐに分かった。私がドアを開けた瞬間、部屋の中から風が吹いたのだ。
「どう………し、て………」
持っていた買い物袋をバサリと落とす。袋から飛び出たミネラルウォーターが転がり、廊下の手すりに挟まって止まった。
「い、やああああぁぁぁぁぁ………」
膝から崩れ落ち、その場に座り込んでしまう。体がガクガクと震えるのは寒さのせいではない。私は震える体を止めようとぎゅっと自分を抱きしめた。
何で、こんなことに。確かにこのアパートは古いけれど、この辺りで物騒な事件が起きたことはない。最近も、そんな話を聞いたことはなかった。古いアパートだけに、自分でも用心していたつもりだったのだ。
玄関から全ての部屋が見渡せてしまう狭いアパート。私の震える視界の向こうで、アイボリー色のお気に入りのカーテンがビリビリに裂かれ、はたはたと風に吹かれはためいていた。
「渡辺さん、大丈夫ですか?」
私がまず頼ったのは柊二さんの秘書の沢口さんだった。柊二さんに電話をかけようとして彼がいないことを思い出し、彼が留守の間、いろいろ気遣ってくれていた沢口さんに連絡を取った。彼は孝くんにも連絡をしてくれたらしく、私は今、沢口さんの車―――といっても、いつも柊二さんが移動に使う会社の車で、沢口さんが運転しているだけなのだが―――の後部座席に乗せられている。隣には孝くんもいた。
「…………」
二人が駆けつけてくれて、警察に連絡をしてくれた。だが私はまだ声が出せないでいる。警察が事情聴取を取りたがっているらしいが、不安定な私を気遣って、沢口さんと孝くんが私をこの車にひとまず非難させてくれた。
私の様子は柊二さんの秘書の沢口さんが、こまめに見に来てくれる。気にかけてくれるのが分かって嬉しいが、正直過保護すぎるとも思う。柊二さんは私をたまに子供扱いするけれど、私だってもう成人だ。大学進学で上京してからずっと一人暮らしをしてきたし、今まで何も問題なく過ごしているのだから。
私は仕事を終え、自宅アパートの最寄り駅で降りると近所のスーパーに寄った。今日は寒いから簡単に鍋焼きうどんにしよう。冷蔵庫に野菜が少し残っているから、足りないものだけ買い足せばいい。私はスーパーでうどんと、しいたけと、春菊、それからミネラルウォーターを買った。
古いアパートの郵便受けを覗いたときに、異変を感じた。郵便物が一通もない。たまにはそんなこともあるかもしれないが、いつもはダイレクトメールやら広告が、何かしら入っているのに。
私は首をひねりながら、ギシギシと軋む階段を上り、自分の部屋の前まで来た。特におかしなところはない。だが、鍵穴に鍵を差し込んだところでやはりおかしいことに気づいた。鍵が、開いているのだ。……朝家を出るときに、鍵を閉め忘れてしまったのだろうか。
心臓がドクドクと高鳴り、手に汗が滲んできた。大丈夫、きっと、何でもない。今までずっと、平和に過ごしてきたではないか。
滲んだ手汗をスカートに撫でつけると、私はぐっと力を込めてドアノブを回した。ギィと重たい音を立ててドアが開く。部屋の中は真っ暗で何も見えないが、異変はすぐに分かった。私がドアを開けた瞬間、部屋の中から風が吹いたのだ。
「どう………し、て………」
持っていた買い物袋をバサリと落とす。袋から飛び出たミネラルウォーターが転がり、廊下の手すりに挟まって止まった。
「い、やああああぁぁぁぁぁ………」
膝から崩れ落ち、その場に座り込んでしまう。体がガクガクと震えるのは寒さのせいではない。私は震える体を止めようとぎゅっと自分を抱きしめた。
何で、こんなことに。確かにこのアパートは古いけれど、この辺りで物騒な事件が起きたことはない。最近も、そんな話を聞いたことはなかった。古いアパートだけに、自分でも用心していたつもりだったのだ。
玄関から全ての部屋が見渡せてしまう狭いアパート。私の震える視界の向こうで、アイボリー色のお気に入りのカーテンがビリビリに裂かれ、はたはたと風に吹かれはためいていた。
「渡辺さん、大丈夫ですか?」
私がまず頼ったのは柊二さんの秘書の沢口さんだった。柊二さんに電話をかけようとして彼がいないことを思い出し、彼が留守の間、いろいろ気遣ってくれていた沢口さんに連絡を取った。彼は孝くんにも連絡をしてくれたらしく、私は今、沢口さんの車―――といっても、いつも柊二さんが移動に使う会社の車で、沢口さんが運転しているだけなのだが―――の後部座席に乗せられている。隣には孝くんもいた。
「…………」
二人が駆けつけてくれて、警察に連絡をしてくれた。だが私はまだ声が出せないでいる。警察が事情聴取を取りたがっているらしいが、不安定な私を気遣って、沢口さんと孝くんが私をこの車にひとまず非難させてくれた。