この恋、永遠に。
 頷く彼女に、俺はもう二度、三度、口移しで水を飲ませた。だいぶ生気が戻ってきている。

「柊二さん……」

 美緒が俺の名前を呼んだ。抱き寄せていた俺に、弱々しいながらもギュッとしがみついてくる。よかった、もう大丈夫。

「美緒、もう大丈夫だよ」

 安心させるように美緒の背中を撫でてやる。彼女は黙って俺に体を預けたまま、弱々しく頷いた。

「傍にいてあげられなくて、ごめん……」

「ううん……みんながいてくれたから……心配かけてごめんなさい」

 美緒は小さな体を俺にすり寄せるようにして縋りついてきた。彼女の華奢な肩が小刻みに震えている。これまで美緒は震えるばかりで決して泣かなかったと聞いていた。けれど今、俺の腕の中にいる彼女の肩は震え、小さな嗚咽が聞こえてくる。
 俺は彼女を抱き寄せる腕に力を込めると、腕を伸ばして彼女の髪を優しく撫でた。いつも綺麗に手入れされている彼女の長い髪は、あちこちが絡まっていて、俺の胸は痛んだ。



 美緒が落ち着くのを待って、ほんの少しクッキーをかじらせた後、俺は真帆さんにお礼を言って、彼女を自分のマンションへと連れ帰った。
 どんなに美緒にとって居心地のいい住み慣れたアパートだとしても、俺はもう彼女をあのアパートに帰らせるつもりはない。やはりあのアパートは古すぎた。彼女に初めて会った日、アパートまで送って行って感じたことは正しかったのだ。

 暫くは慣れない生活を強いることになるかもしれないが、どちらにしろ俺たちは既に婚約しているのだ。俺のマンションで一緒に暮らすのも時間の問題だったし、いい機会だと思う。

「そうか。それじゃあ怨恨の可能性があるというわけだな」

 俺は電話の向こうで今回の事で世話になった人物、俺の優秀な秘書の沢口に苦い溜息を零した。

『……ええ。まだ渡辺さんの聴取が取れていませんのではっきりとは断定できないそうですが、通帳やキャッシュカードなどは残っていたそうです。ただ、部屋が荒らされて物が壊されていたそうで…』

「……そうか」

 美緒を恨む人物などいるのだろうか?彼女はいつも控えめで優しくて、敵を作るタイプではない。だとしたらどうして?すぐに俺は自分の身の回りに関係していないか思いを巡らせるが、俺もこれといった見当がつかない。全く、予想外の出来事なのだ。

「とりあえず、わかった。この件については引き続き調べてくれ。美緒がもう少し落ち着いて体力が戻ったら一緒に警察に行くが、今はまだ駄目だ。彼女にはもう暫く休息が必要だ」

『そうですね』

「悪いが俺も暫く休む。仕事は自宅でやるから必要なデータは送っておいてくれ。何かあったら携帯に連絡を」

『かしこまりました』

「悪いな、沢口」
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